中学2年生までに学習した「地理」と「歴史」はいかがでしたか?
膨大な“暗記”に苦労した子も多いと思います。
「中学3年生の社会」では、新しく始まる「公民」という教科を学習します。
公民は、私たちの生活に大きく関わっている事柄や、ニュースなどで耳にする用語がたくさん出てくるので、「あ、これ聞いたことある!」なんてことがたくさん出てきますよ!
どれも聞いたことがありますよね。
■ 公民は私たちにチョー身近な教科
地理や歴史のように“暗記中心”の学習ではなく、ニュースなどで耳にする用語に結びつけながら“理解して覚える”といった学習方法がとても効果的。
学校の授業をしっかり聞いて、さらに!日々のニュースで出てきた用語に興味を持ちながら”調べ学習”を身につけると公民は楽勝です!
このページでは、中学3年生の公民で押さえておきたい学習ポイントをご紹介させていただきます。
こんなページも見られています!
>>中学3年生の教科別学習ポイント
>>中学2年生の社会(地理・歴史)
>>中学1年生の社会(地理・歴史)
2021年4月から中学校の教科書が全面的に改訂され、新しい学習指導要領による授業が開始されました。歴史・地理・公民のすべての教科書に「SDGs」がモリモリ。グラフデータや資料の読み取り力も必要となり、これまでのような暗記だけでは対応できなくなりました。
もっと詳しく知りたい!
>>2021年からの社会は暗記だけじゃない!
中学3年生の公民
日本国憲法
私たちがよく耳にする「憲法」というのは、正式には「日本国憲法」っていいます。
日本国憲法が制定される前と後ではどのような違いがあるか、憲法とは具体的にどのようなものか、公民を学習していく上でとっても大切なところですので、しっかり理解を深めていきましょう。
日本国憲法
①憲法は国の最高法規
日本国憲法以外にも、刑法、民法、商法などの法律や、命令、規則など、数えきれないほどの種類の「守らなければならないルール」があります。
みなさんが通う中学校にも「校則」がありますよね。制服や髪型などの身だしなみやスマホの使用禁止など、学校によってさまざまです。このような「校則」も立派な「ルール」ですよ。
このようにさまざまな「守るべきルール」があるなかで、絶対に侵してはいけない“最高法規”が日本国憲法なのです。
日本国憲法に反するすべての法律や命令、規則はすべて無効(効力をもたない)となるので、日本国憲法は国の最高法規であること覚えておいてください!
■ 立憲主義
国家の政治権力というのはとっても強大。政治権力の使い方によっては、私たち国民の自由や権利をかんたんに奪うことも出来てしまいます。
国民の人権を守りそれを保障していくために、憲法によって権力を制限するという考え方を立憲主義といいます。
⦿立憲主義は「法の支配」
例えば、国王や君主(1人の人間)がすべての権力を握って国を統治すると、国民の自由や権利を奪ってしまうことが起こりえます。
「人」というのはさまざまな“欲”や“考え方”などによって間違いを犯してしまう可能性があるからです。
このように「人の支配」ではなく「法の支配」によって政治が行われることが立憲主義の考え方なのです。
日本国憲法
②憲法制定までの流れ
実際に日本国憲法が施行されるまでのかんたんな流れと年号は絶対に覚えてください!
憲法の公布と施行は日付も暗記!
1945年:日本敗戦。ポツダム宣言を受諾
1946年:11月3日に日本国憲法が公布
1947年:5月3日に日本国憲法が施行
~公布と施行~
「公布」は新憲法を国民に発表すること。
「施行」は新憲法の効力を発生させること。
※現在は11/3は「文化の日」、5/3は「憲法記念日」として国民の休日ですね。
1941年に始まった第二次世界大戦(太平洋戦争)が1945年に終戦。敗北した日本がポツダム宣言を受け入れ降伏しました。
終戦後、日本政府が作った憲法改正案の中には天皇主権が残っていた為、アメリカのマッカーサー率いる連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が自ら憲法改正案を作成し、一部修正のうえ可決。
1946年11月3日に日本国憲法が公布され、
1947年5月3日に日本国憲法が施行されました。
敗戦後、軍国主義を捨てて平和で民主的な国家になるためにGHQ指示のもとに制定されたのが日本国憲法です。
日本国憲法
③大日本帝国憲法とのちがい
日本国憲法が制定される前は「大日本帝国憲法」という名前の憲法でした。
※大日本帝国憲法は“明治憲法”とも呼ばれています。
戦前の大日本帝国憲法、戦後の日本国憲法との“ちがい”はテストでもよく出る超重要ポイントですので、確実に理解して覚えてください!
★大日本帝国憲法と日本国憲法の比較★
大日本帝国憲法 | 日本国憲法 | |
---|---|---|
1889年2月11日 | 公布 | 1946年11月3日 |
1890年11月29日 | 施行 | 1947年5月3日 |
欽定憲法 | 形式 | 民定憲法 |
天皇主権 | 主権 | 国民主権 |
統治権を持つ元首 | 天皇 | 日本国の象徴 |
臣民の権利 | 人権 | 基本的人権の尊重 |
あり | 軍隊 | なし |
※他にも「ちがい」はたくさんあります。
■ 天皇主権と国民主権
大日本帝国憲法は天皇主権、
日本国憲法は国民主権
大日本帝国憲法では…
⦿「天皇」が主人公(天皇主権)
大日本帝国憲法の下では主権者は天皇でした。
たとえば、法律を決める立法権は天皇にあったり、司法権は天皇の名において裁判所が行ったり、陸海空の統治権も天皇がもっていました。
私たち「国民」のことを「臣民」と呼び、臣民の権利(人権)は法律の範囲内で保障されていました。
日本国憲法で定められている“基本的人権の尊重”とは程遠い、非常に狭い範囲の人権しか与えられていませんでした。
日本国憲法では…
⦿「国民」が主人公(国民主権)
一方で日本国憲法の下では主権者は国民です。
この「国民主権」は日本国憲法の3つの基本原理(※)の1つで、「天皇主権」とのちがいを確実に覚えてください。
国民主権・平和主義・基本的人権の尊重
国民主権とは、国の政治の決定権は国民が持ち、政治は国民の意志に基づいて行われるべきであるという原理です。
とは言っても国民が直接法律を作ったり国家予算を決めることはできませんよね。
そこで主権者である国民に選ばれた代表者によって国会で決めるという議会制が採用されています。つまり、“選挙”によって国民が代表者(国会議員など)を選ぶ、というわけです。
■ 天皇の地位
大日本帝国憲法は、統治権をもつ元首
日本国憲法は、日本国・日本国民統合の象徴
大日本帝国憲法では…
⦿天皇は「元首」
大日本帝国憲法での天皇の位置づけは神聖不可侵で統治権をもつ「元首」でした。
天皇主権でもお話ししたように、権力者のトップは元首である天皇で、軍隊の統帥権や統治権、さらに立法、行政、司法の全ての権限をもっていました。
天皇は万世一系の皇統にあるとされ、臣民(国民)は天皇に絶対服従すべきだと定められた“絶対的権力者”だったのです。
日本国憲法では…
⦿天皇は「象徴」
一方で日本国憲法では、天皇は主権者ではなく、日本国と日本国民統合の「象徴」という位置づけとなり、憲法に定められている国事行為のみを行います。
天皇が行う国事行為には、すべて内閣の助言と承認が必要で、その責任は内閣が負います。
このように日本国憲法では天皇が行える政治的行為は細かく制限され、その位置づけが「権力者」から「象徴」へと大きく変わったのです。
■ 国民の人権
大日本帝国憲法は、臣民ノ権利
日本国憲法は、基本的人権の尊重
大日本帝国憲法では…
⦿法律によって制限された人権
大日本帝国憲法での“人権”は、主権者である天皇から与えられた「臣民ノ権利」として一応の保障はなされていましたが、その権利は法律によって制限されるものでした。
つまり、大日本帝国憲法で保障されていた“人権”は、国家権力によっていくらでも制限することができる不十分なものだったのです。
日本国憲法では…
⦿基本的人権の尊重が確立
一方で日本国憲法では“人権”はだれもが生まれながら持っている「侵すことができない永久の権利」として規定されており、国家権力や法律によって制限されないという基本的人権の尊重(人権の不可侵性)を確立させました。
このように“人権”の考え方も「制限ありの人権」から「すべての人に与えられた永久の権利」として大きく変わりました。
■ 他にもさまざまな違いが…
大日本帝国憲法と日本国憲法では、他にもたくさんの違いがあります。
形式では、大日本帝国憲法は「君主が定める欽定(きんてい)憲法」で、日本国憲法は「国民が定める民定憲法」だったり、軍隊の有無や議会の違いなどたくさんあるので、教科書や資料集などでチェックしてください!
ここからも日本国憲法を詳しく見ていくので、日常の中で聞いたことがある語句を照らし合わせながら覚えていきましょう。
日本国憲法
④国民主権
大日本帝国憲法では「天皇主権」でしたよね。
「国民主権」は日本国憲法の“3つの基本原理”の1つです。
国民主権・平和主義・基本的人権の尊重
■ 国民主権は「民主主義」
国民主権は、国の政治は一部の人間によってではなく、国民すべての意志(日本国民の総意)によって決定されるべきであるという「民主主義」の考え方になります。
これは日本国憲法の「前文」や「第1条」に記載されています。
【前文の一部】※憲法の第1条は、主に天皇が象徴であるということが書かれていますが、同時に主権は国民にあるということも書かれています。
日本国憲法の前文も条文も教科書に載っているので、重要な箇所はしっかり暗記してください。前文は特に重要なので丸暗記しちゃいましょう!
⦿間接民主制
主権が国民にあるといっても、国民全員で物事を話し合うことは不可能ですし、複雑なことを決めていくことも困難です。
そこで日本では、国民の代表者を選挙で選び、その代表者が議会で物事を話し合って決めていくという「間接民主制」が採られています。
このことを「議会制民主主義」ともいいます。
⦿直接民主制
直接民主制とは、国民(住民)全員が直接政治に参加する仕組みのことです。
日本の場合はほとんどが選挙で代表者を決める「間接民主制」が採られていますが、一部だけ「直接民主制」も取り入れられています。
憲法改正の国民投票、地方自治特別法に関する住民投票、最高裁判所裁判官の国民審査など。
ちなみに・・・
憲法改正の国民投票は今まで一度も行われたことがありません。(2019年現在)
以前からも憲法改正の議論が国会でも多く見られ、昨今では集団的自衛権の問題や自衛隊のあり方などのニュースでもよく耳にします。
もしかしたら近い将来、憲法改正の発議が国会で通り、戦後初めての憲法改正の国民投票が行われるかもしれませんね。
日本国憲法
⑤平和主義
日本は第二次世界大戦の反省から、日本国憲法で戦争を放棄して世界平和のために努力するという「平和主義」をかかげました。
「平和主義」は日本国憲法の“3つの基本原理”の1つです。
※日本国憲法3つの基本原理国民主権・平和主義・基本的人権の尊重
平和主義が書かれているのは、憲法の「前文」と「第9条」です。
【前文の一部】■ 憲法第9条
平和主義(戦争放棄)のことが書かれている条文として「第9条」はメチャクチャ大事です。ここも丸暗記!
【第9条】①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法第9条ではこのように「戦争放棄」「戦力を持たない」「交戦権を認めない」ということを主張しています。
まさに“平和”を目指し「戦争は二度としない」という強い意志の表れのようで、国際的にも平和憲法として高い評価を得ています。
⦿自衛隊について
日本には「自衛隊」がありますよね。地震や台風などの災害時には、自衛隊の方々の決死の活躍がニュースでも報道されています。
私たち国民を守ってくれている自衛隊ですが、機関銃などの銃器はもちろん戦車や戦闘機も持っています。
これらはいわゆる“兵器”であり、憲法で禁止されている“戦力”であって、憲法違反なのではないかという議論がなされてきました。
日本政府は、主権国家には自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を持つことは禁止していないと説明してきました。
他国からの侵略を防ぐ「安全保障」であって、「戦力」ではなく「防衛力」であると解釈されてきましたが、近年では“集団的自衛権”の解釈など、専門家のなかでも意見がわかれているようです。
このように、自衛隊と第9条の解釈をめぐって憲法改正の議論がされているのです。
⦿日米安全保障条約
日本はアメリカと日米安全保障条約を結んでいます。他の国が日本の領域を攻撃してきたときに、日本とアメリカが協力して対処するという条約です。
もしもの時にアメリカ軍がすぐに対応できるように、日本の領域内にアメリカ軍を駐留することを認めており、沖縄をはじめ日本国内にはアメリカ軍基地がいくつかあります。
<沖縄県の基地問題>
日本にある米軍基地のほとんどが沖縄県に集中しており、面積でいうと日本在住の米軍基地の71%が沖縄県です。沖縄県の基地負担は政治問題にもなっており、日本政府と沖縄県の間で合意と対立が繰り返されています。
とくに普天間飛行場の移設問題は、名護市の辺野古に移設するという合意があったものの、反対している住民もたくさんいるようです。
⦿非核三原則
1945年に日本は広島と長崎に原爆を投下され、多くの犠牲者を出しました。世界中で見ても日本は核兵器を使用された唯一の被爆国です。
二度とこのような惨劇を繰り返さないように、核兵器を「持たず、作らず、持ちこませず」という非核三原則をかかげました。
核兵器の根絶を願い、世界の平和を推進することが日本の役割とも言えるのです。
日本国憲法
⑥基本的人権の尊重
私たち人間が、自由で人間らしく生活するうえで生まれながらにしてもっている権利を「基本的人権」といいます。
日本国憲法でもあらゆるところに記載され、平等権、自由権、社会権、参政権などの基本的人権が保障されています。
「基本的人権の尊重」は日本国憲法の“3つの基本原理”の1つです。
※日本国憲法3つの基本原理国民主権・平和主義・基本的人権の尊重
日本国憲法では特に「第3章」の「国民の権利及び義務」の中で“基本的人権”について多く書かれています。
一部の条文を紹介しますが、「基本的人権」という語句が含まれていなくても、文面から個人の人権を尊重するという意味が伝わりますね。
【第11条】
人権については他の条文にも書かれています。
基本的人権の尊重とは、すべての国民の人権は、法の下で平等であり、差別されず、奴隷的拘束も受けず、侵すことが出来ない永久の権利であるということです。
戦前の大日本帝国憲法でも人権は保障されていましたが、そこには「法律の範囲内」という制限がついていました。
つまり、法律内で制限をかけてしまえば人権は守られなくなるということです。
大日本帝国憲法での人権は「不安定な権利」だったのが、日本国憲法では「侵すことのできない永久の権利」として保障されたのです。
日本国憲法
⑦平等権
歴史でも習ったと思いますが、昔はさまざまな差別がありました。
農民の子は農民、武士の子は武士、男女や部落の差別、低い身分の家に生まれた子は出世が難しいなど、生まれ持った環境で人生が決まってしまうという時代もありました。
※豊臣秀吉のように農民の子供で生まれて天下人になった例は超例外!
日本国憲法では、人は誰もが法の下で平等であることを認めています。
これは、生まれながらの“差別”があってはいけないという考え方で、具体的には、男女の平等、身分差別のない平等、民族や人種の平等、障害者への配慮、在日外国人への配慮などがあげられます。
日本国憲法で認められている「平等権」は、基本的人権のひとつです。
■ 男女の平等
男女の性別によって差別されず、男女平等を目指す考え方です。
日本国憲法では上記の「第14条」に記載されていますが、憲法以外にも男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法で、雇用や社会活動への参加について男女平等の法律が制定されています。
⦿男女雇用機会均等法
就職するときや働く職場のなかで男女平等を目指す法律で、1985年に制定されました。
例えば職場において、女性だから給料を安くしてもいいとか、女性だから昇級させないとかを禁止しています。この法律は「法の下の平等」を掲げる日本国憲法の理念にのっとって作られました。
⦿男女共同参画社会基本法
あらゆる社会活動において、男女が対等な立場で利益と責任を分かち合う社会の実現を目指して、1999年に制定されました。
参画とは…?
「さんかく」って読みます。
似たような言葉で「参加」がありますが、「参画」はただ参加することではなくて、自分の意見を言ったり方針を決めたり色んなことを決定するなどの、意思決定への参加を意味します。
「運動会に参加する」
→運動会に出るだけの意味です。
「運動会について参画する」
→運動会について自分の意見を言ったり、企画を立案したり、そういう意思決定の場に参加する意味になります。
■ 差別の撤廃
男女の差別のほかにも、部落による差別、アイヌ民族に対する差別、在日韓国人や朝鮮人に対する差別、障害を持つ人への差別などがあります。
(人権は)侵すことのできない永久の権利という憲法の理念をしっかりと認識しながら、法やルール以前に差別は絶対にダメということを心にとどめておいてください。
⦿部落差別(同和問題)
生まれた場所(被差別部落)や、その地域の出身というだけで差別されることを部落差別といい、または同和問題ともいいます。
この問題は歴史的にも古く、日本人特有の差別として、現在でも根深く残っている地域もあり、学校や地域、職場などのさまざまな場所で、部落差別をなくすべき人権教育や啓発活動が行われています。
⦿アイヌ民族に対する差別
アイヌ民族は北海道、樺太(からふと)、千島列島を中心に、独自の文化と言葉を持って生活してきた先住民族です。
明治時代に政府は「蝦夷地(えぞち)」を北海道と改名し、アイヌ民族の土地をうばい、伝統的な風習を禁止し、その頃からアイヌ民族への差別が強まりました。
アイヌ民族への差別撤廃へのはたらきの結果、1997年に「アイヌ文化振興法」が制定され、アイヌ文化の振興が国と地方公共団体の責務であることが明文化されました。
⦿在日外国人の方への差別
在日韓国人や朝鮮人、ブラジルやペルーなど南アメリカの日系人への差別が依然残っています。
在日外国人への差別意識は、これらの方々に対する無知と偏見から起こっています。
歴史的背景や言葉・文化・考え方の違いを認めたうえで、ともに助け合う共生社会を築き上げることが必要です。
⦿障がいのある方への配慮
身体や知的に障がいを持っている人へは、特別な配慮が必要です。
車いすでもさまざまな場所に行けるように、バリアフリーや専用エレベーター、障害者専用トイレや電車の優先席など、これらの設置が当たり前の世の中にする必要があります。
社会の中では全ての人が区別されることのないノーマライゼーションの実現が求めれられています。
また、障害者基本法や障害者差別解消法が制定され、明文化されています。
「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」という理念 ※厚生労働省が提唱
差別をすることは、
差別をされた人を傷つけるだけではなく、
差別をした人も不幸になります。
日本国憲法
⑧自由権
日本国憲法が認める自由権には、精神の自由、身体の自由、経済活動の自由があり、そこからさらに細分化されます。
自由権も近代における人権保障の中心のひとつで、かつての日本でもあった不当な逮捕や拷問、思想の弾圧は決してあってはならない考え方です。
私たちが人間らしく生きていく上で自由に考え行動できることはとても大切です。
しかし、何でもかんでも自由にしていいというわけではなく、自由には“責任”も伴うということも覚えておいてください。
■ 精神の自由
私たち個人の思想や信教、表現、学問などの自由を認めるのが精神の自由です。
もしも国や政府が「この考え方はダメ」と決めつけてしまったら、民主主義は成り立たなくなってしまいます。
⦿思想および良心の自由
【第19条】
思想および良心の自由は、私たちの「心の中の自由」です。
人それぞれ、心の中でどんなことを考えるかは、他人や国家からも一切の制約を受けない自由があるということです。
「この本を盗みたい」「あいつを殴りたい」と心の中で思うのは自由ですが、実際に行動するのは犯罪になるのでダメですよ!
⦿信教の自由
【第20条】①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
信教の自由は、どのような宗教を信じてもいい自由と、宗教を信じなくてもいい自由です。
さらに、国家権力による宗教的活動の禁止も書かれています。
これを“政教分離の原則”といいます。
⦿表現の自由
【第21条】①集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
②検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
表現の自由も民主主義の根幹となります。
国家権力がテレビや新聞などに対して「このように放送しなさい」「これは書いてはダメです」などと制限や圧力をかけてしまうと、私たち国民に本当のことが伝わらなくなって、国民主権(民主主義)が機能しなくなるかもしれません。
検閲の禁止や通信の秘密についても書かれていますね。
検閲(けんえつ)というのは、本や新聞などの出版物を国がチェックして都合の悪いモノは出版させないという考え方で、通信の秘密というのは、電話の通話とかを国によって傍受(盗聴)されないということです。
検閲の禁止や通信の秘密によっても表現の自由が守られているのです。
もちろん、表現の自由があるからといって、人を傷つけたり、悪口を言ったりしてはいけません。
日本国憲法で保障されている表現の自由とは、個人間での自由と言うよりも、国家が個人に対して制限をかけてはいけないという意味での自由であるととらえてください。
■ 身体の自由
戦前の日本では、警察による不当な捜査や、拷問による取り調べが行われていました。
日本国憲法ではこのようなことがないように、身体の自由を保障しました。
⦿奴隷的拘束および苦役からの自由
【第18条】
奴隷的拘束というのは、身体を拘束されたうえで非人間的な扱いをうけるという意味です。
過ちを犯して刑務所に入っている人にも奴隷的拘束は禁止されています。
苦役というのは、普通以上の辛い労働や懲役のことを言います。
その人が望まない苦役は禁止されていますが、犯罪による処罰のための懲役は認められています。
⦿法定の手続きの保障
【第31条】かんたんに言えば、法律の定める手続きによるもの以外では、生命や自由が奪われることはないということです。
例えば、罪を犯した人は刑罰によって刑務所に入れられたり(身体的拘束)、刑務所で働かされたり(苦役)、場合によっては生命を奪われたり(死刑)することがあります。
これらは全て、法律の定める適性な手続きによるものではなくてはなりません。
法律では罪の種類や重さによって刑罰が決まっており、不適切または理不尽な身体的拘束などから守られるために明文化されているのです。
⦿他にも・・・
身体の自由には、逮捕・拘禁などに対する保障(第33条・34条)や、住居の不可侵(第35条)、刑事手続きの保障(第36条~39条)などがあります。
条文などをしっかりチェックしておいてくださいね!
■ 経済活動の自由
日本国憲法では、自分の住む場所や職業を自由に決めたり、お金や土地などの財産を自由に持てるなどの、経済活動の自由が認められています。
しかし、自由な経済活動によって、貧富の差が広がったり、不公平な世の中になる恐れもあるので、経済活動の自由は精神の自由に比べて制限されています。
⦿住居・移転・職業選択の自由
【第22条】①何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
②何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
ここでは、自分が住む場所の自由、引っ越しする自由、職業を選べる自由などが保障されています。
しかし、“公共の福祉に反しない限り”という文章がありますね。
いくら自由が認められていると言っても、他人が住んでいる家に勝手に住むことは出来ませんし、医師免許を持っていない人は医者にはなれません。
ここでの“自由”とは、自分の意志に反して住む場所や職業を強制されないという意味です。
⦿財産権
【第29条】①財産権は、これを侵してはならない。
②財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。
③私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。
財産権とは、自分のお金や資産(建物や土地など)を自由にすることができる権利です。
しかし2項に“公共の福祉”という言葉がありますよね。ここでも何でもかんでも自由というわけではなく、さまざまな法律的な制限があります。
たとえば自分の土地だからといって、10階建ての家を建てると周りの家に迷惑ですし、建築基準法という法律でも制限がかかってしまいます。
3項では“公共のために用いることができる”とあるのは、たとえば「道路を作るためにお金を支払うから立ち退いてほしい」ということをお願いすることができる、ということです。
昔の日本では、例えば士農工商といった身分制度があった時代もあって、住む場所や職業(武士や農民など)を自由に選択できませんでした。
現在での日本国憲法では、経済活動の自由が認められており、住む場所も引っ越しも、職業選択の自由も認められていますが、“公共の福祉に反しない限り”ということも覚えておいてください。
日本国憲法
⑨社会権
社会権とは、すべての人が人間らしい豊かな生活を保障する権利で、平等権や自由権とともに憲法で保障されている基本的人権のひとつです。
日本国憲法では社会権として、生存権、教育を受ける権利、勤労の権利、労働基本権を保障しています。
■ 生存権
社会権の中で一番基本となる権利が“生存権”です。
たとえば病気やけがで働けなくなって収入がなくなってしまったら、人間として最低限度の生活さえ送ることが出来なくなってしまいます。
そのような人たちは、法律によって保護されるべきであるという考え方が生存権です。
⦿国の社会的使命
【第25条】①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
健康で文化的な最低限度の生活の部分はテストにもよく出るので、1語1句しっかり覚えてください。
具体的には、生活に困窮してしまった人への生活保護や、病気にかかった人への医療保険や介護保険、高齢者の人への年金などがあります。
■ 教育を受ける権利
中学生のみなさんには教育を受ける権利があります。
世界中には、戦争や紛争、貧困などで、勉強どころか今日を生きるだけで精いっぱい、教育を受けたくても受けられない子供たちがたくさんいます。
「勉強なんて大キライ!」なんて言わずに、がんばりましょうよ!!
⦿受ける権利と受けさせる義務
【第26条】①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
教育は、受ける権利と受けさせる義務があります。
もしも学校の先生に「廊下に立っていなさい!」と言われたら、「自分たちには教育を受ける権利があるし、先生には教育を受けさせる義務があるから、このまま授業を受けます!」とはっきり言いましょう(笑)。
■ 勤労の権利
働いて収入(お給料)を得て生活を安定させることはとっても大切です。
この働くことが出来る権利を、勤労の権利といいます。
勤労には権利の他に義務(勤労の義務)もあるので、後から出てくるので覚えておいてください。
⦿勤労の権利と労働基本権
【第27条】①すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
②賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
③児童は、これを酷使してはならない。
労働基本権(労働三権)
働く人たちは、雇い主である使用者(社長とか経営者とか)に比べて、弱い立場にあるので、労働者の権利を守るために労働基本権(労働三権)が保障されています。
労働三権とは、団結権、団体交渉権、団体行動権です。
団結権…労働組合を作る権利
団体交渉権…賃金や労働条件の改善を求めて交渉する権利
団体行動権…要求実現のためにストライキなどを起こす権利
日本国憲法
⑩参政権
私たち国民が政治に参加する権利を参政権といいます。
参政権には、選挙権、被選挙権、国民投票、国民審査があります。
■ 選挙権
選挙で投票する権利
選挙権とは、国会議員、都道府県知事、市区町村の長を選挙する権利で、具体的な選挙のルールなどは公職選挙法で定められています。
一定の年齢以上の全ての国民が選挙権を得るという原則を普通選挙といいます。
かつての公職選挙法では、選挙権の年齢は満20歳以上でしたが、2016年の改正により満18歳以上に引き下げられました。
大日本帝国憲法のときは、納税額によって選挙権が制限されたり(お金持ちしか投票できなかった)、女性に選挙権がなかったり(男女が不平等)だったのですよ。
⦿選挙の4原則
日本の選挙には、普通選挙、平等選挙、直接選挙、秘密選挙の4原則があります。
1. 普通選挙
公職選挙法で定められた年齢以上の全ての国民に選挙権が与えられます。
現在では満18歳以上の全ての国民が選挙権を持っています。
2. 平等選挙
1人が投票できるのは1票のみです。どんなにお金持ちでも偉い人でも平等に1人1票。
日本国憲法では選挙人の資格を「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはいけない」と定めています。(憲法第44条)
3. 直接選挙
私たち国民(投票する人)が直接、国会議員などを選挙することです。
直接選挙に対して間接選挙というものがあり、アメリカの大統領選挙がこれにあたります。
アメリカでは国民が選挙人を選んで、選挙人が大統領候補者を選ぶという間接的な選挙方法を取っています。
4. 秘密選挙
誰がどの政党や候補者に投票したかを他人に知られないために、無記名での投票が行われます。
■ 被選挙権
選挙で投票される権利=立候補する権利
被選挙権とは、選挙に立候補して、投票してもらう権利です。
被選挙権も選挙権と同様に、ある年齢に達すれば、日本国民であればだれでも立候補することが出来ます。
⦿被選挙権の年齢
衆議院議員…満25歳以上
参議院議員…満30歳以上
都道府県知事…満30歳以上
都道府県議会議員…満25歳以上
市町村長…満25歳以上
市町村議会議員…満25歳以上
国会議員である衆議院議員と参議院議員の被選挙権の年齢はテストに出るのでしっかり覚えておいてください。
■ 国民投票と国民審査
憲法改正の国民投票や、最高裁判所裁判官の国民審査のように、国民が直接審査する制度も参政権のひとつです。
憲法改正については、現在もさまざまな議論が行われています。
もし憲法改正の発議が国会で通ったら、最終的には私たちの国民投票によってその是非が決定されます。
憲法改正の手続きは、憲法第96条に書かれているので、数字や手順を覚えてください。
【第96条】国会議員は衆議院議員と参議院議員で分かれていますが「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」と「国民投票で過半数の賛成」というのがポイントです。
①衆議院で3分の2以上の賛成
さらに!
②参議院で3分の2以上の賛成
さらに!!
③国民投票で過半数の賛成が必要です。
※各数字は丸暗記!!
日本国憲法
⑪国民の3大義務
日本国憲法には、さまざまな国民の権利が保障されていましたね。自由権や平等権、社会権や参政権など、たくさんの権利が保障されています。
さらに日本国憲法では、3大義務と呼ばれる国民の義務も制定されています。
この“国民の3大義務”はとても重要なので、確実に覚えてください。
・普通教育を受けさせる義務
・勤労の義務
・納税の義務
■ 普通教育を受けさせる義務
教育については、「教育を受ける権利」のところにも出てきました。
教育は「受ける権利」と「受けさせる義務」がセットになっています。
①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
②すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。
第1項には「教育を受ける権利」、第2項には「普通教育を受けさせる義務」が書かれています。とっても似ている文言ですが、この2つは「誰が」という主語が異なるのが重要なポイントです。
教育を受ける権利は子供たちが持っており、教育を受けさせる義務は大人たちが持っているということを覚えてください。
ややこしいですが「教育を受ける義務」というのは日本国憲法には存在しません。
⦿教育を受けさせる義務は「大人」がもつ
大人たちは子供たちに対して「教育を受けさせる義務」を負っています。
例えば親が小学生や中学生の子供に対して「あなたは学校には行かないで毎日家の手伝いをしなさい」と言って学校に行かせなかったら、それは憲法違反になってしまいます。
大人が子供に対して負っているのが「教育を受けさせる義務」なのです。
26条の2項に「義務教育」って言葉がありますね。義務教育は小学校6年間と中学校3年間を意味するわけですが、これは、子供が小中学校に通って教育を受ける義務があると思っている人も多いと思います。
大人は子供に教育を受けさせる義務はありますが、子供に教育を受ける義務は存在しません。
子供たちが持っているのは「教育を受ける権利」ですので、本当にややこしいですが、権利と義務のちがいと、誰が誰に対して負っている(持っている)のかを理解しましょう!
(正)大人=教育を受けさせる義務
(誤)子供=教育を受ける義務
■ 勤労の義務
“勤労”というのも、教育と同じで、権利と義務がセットになっています。
【第27条】①すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
②賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
③児童は、これを酷使してはならない。
第27条の1項には、勤労の権利と義務が書かれています。
人は働くことによって収入を得て、自分や家族の生活を安定させたり、好きなものを買ったりすることができます。
もちろん働くことは、お金だけが目的ではなく、自分の能力を発揮させたり、生きがいの為だったりもします。
勤労は国民の権利として保障されていますが、同時に“義務を負う”とも書かれています。
⦿「勤労」は社会貢献の側面もある
働いて収入を得るということは、自分や家族の為ということはもちろんですが、同時に社会に役立たせる為であるという側面もあります。
例えば、施設などの清掃の仕事をすることによって、その施設の人がキレイで気持ちよく使えるようになったり、商品を作る仕事によって、その商品を買った人が役立ったりと、最終的には他人の為になっていることが多いからです。
このように、働くことが重要な社会参加であるという考え方が「勤労の義務」の考え方なのです。
⦿「勤労の義務」は強い義務ではない
世の中には、けがや病気などで働きたくても働けない人がたくさんいます。
そのような人たちは、勤労の義務に反しているからと言って罰せられるのでしょうか?
答えはもちろん「No」です!
勤労の義務は国民の義務として憲法に書かれていますが、これは法的拘束力が一切ない努力義務であるという考え方です。
義務とは書いてあるけど「なるべく働ける人は働いて下さいね」って感じですね。
「そんなゆるい義務なら憲法に書くなよ」って考え方をもっている学者さんもたくさんいるようです。
■ 納税の義務
教育、勤労に続いて3つ目が「納税の義務」です。納税の義務には、教育と勤労にはあった“権利”は書かれていません。
【第30条】納税とは国や地方自治体に税金を納めることです。
税金にはたくさんの種類があって、例えば「消費税」なんかは、みんなが知っている身近な税金ですよね。
他にも、所得税や法人税、住民税や固定資産税など、税金には多くの種類があります。
⦿税金の使われ方
私たちが収めた税金は、大きくは国家の存続のため、身近では私たちの生活のために使われています。
身近なところでは、道路や公園、図書館や体育館の建設や管理、ごみの回収や下水道の工事など、あらゆる公的サービスに税金が使われています。
私たちの安全を守る警察官や消防士のお給料も、税金から支払われています。
⦿納税の義務は“強い義務”
納めなければならない税金を支払わなかったり、金額をわざとごまかしたりして申告したりすると、強い取り立てにあったり、ケースによっては逮捕されてしまうこともあります。
“脱税の容疑で逮捕”とかって聞いたことがありますよね。
このように「納税の義務」は法的拘束力が強く、「教育を受けさせる義務」や「勤労の義務」に比べて、強い義務であるということも覚えておいてください。
日本国憲法
⑫新しい人権
日本国憲法では、さまざまな「人権」が保障されていましたね。
平等権や自由権、社会権や参政権など、さらにその中でも細分化された数多くの「人権」を学習してきました。
近年では、さまざまな技術の発展により、日本国憲法には制定されていない権利が主張されるようになり、それらは「新しい人権」と呼ばれています。
近年で要請されている新しい人権は、環境権、プライバシーの権利、知る権利、自己決定権などが挙げられます。
■ 環境権
環境権とは、良好な環境を求める“新しい人権”のひとつです。
日本国憲法には“環境権”の制定はありませんが、第13条の「幸福追求権」や、第25条の「生存権」などを根拠に主張されています。
【第13条】①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
日本の高度成長期には、工場から出る汚染物質などによる環境汚染が深刻化されてきました。
このような環境汚染によって、キレイな空気や水などの良質な環境を求める権利として環境権が主張されてきました。
空気や水などの自然環境の他にも、日当たりの良さ(日照権)や音が静かな環境なども環境権のひとつです。
■ プライバシーの権利
情報化社会の発展により、個人の知られたくない秘密を守るべきであるという考え方からプライバシーの権利が人権の一部として認められてきています。
自分の顔や容姿を勝手に撮影されたり公表されたりしない権利である肖像権も、プライバシーの権利のひとつです。
個人や家族の知られたくない個人情報を、本人の同意なく取集されたり公開されたりしないように、国や地方、民間の管理者が個人情報を慎重に管理することを義務づける“個人情報保護制度”が設けられています。
プライバシーの権利も憲法には明文化されていませんが、第13条で保障される人権として憲法にも認められているという解釈です。
【第13条】
「個人として尊重される」という部分ですね。
本人の同意なくむやみに個人情報を公開することは、プライバシーの権利の侵害として認められていますが、同時に、第21条の「表現の自由」と衝突するケースがよくみられます。
①集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
②検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
テレビのワイドショーや週刊誌とかで、芸能人のプライベートが本人の意に反して報道されることがありますよね。
プライバシーの権利と表現の自由(報道の自由)は、時として相反するものであって、そこには法律で守られるべきものである以前に、人として“人の嫌がることはしない”という道徳のようなものが大切かもしれません。
また、高性能なスマートフォンの普及により、人は常にカメラと録音機を持ち歩いている世の中です。本人の許可を得ないで勝手に他人を撮影したり、録音したりすることは、された立場を考えるととっても不愉快なことだということを認識しておきましょう。
■ 知る権利
日本国憲法の3つの基本原理のひとつに「国民主権」があります。
私たち国民が主権者として政治を正しく判断するには、国政に関するさまざまな情報を知ることが必要不可欠です。
国家が政治や経済、社会情勢などの情報を公開せずに秘密にされてしまうと、国民は正しい政治判断が出来なくなり、国民主権を脅かしてしまいます。
そこで国の政治に関する情報を手に入れる権利として知る権利が認められるようになりました。
国や地方では、情報公開制度が設けられ、国民の請求に応じて情報を開示しています。
このように、国民が政府の持っている情報の公開を求める権利が“知る権利”なのです。
※他人の持っている知られたくない個人情報は“プライバシーの権利”で守られているので、ここでの“知る権利”は適応されませんよ。
■ 自己決定権
私たち個人が、個人的な生き方や生活方法を国家から干渉されることがなく、自由に決定できる権利を自己決定権といいます。
近年では、医療のなかで患者自身が治療方法の決定をしたり、手術の際にはインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)が求められています。
また、自分の死後の臓器移植についての意志も、自己決定権を尊重するもののひとつです。
これも先ほどから何度も出てきた第13条で保障されている“幸福追求権”の一部と考えられています。
【第13条】もちろん、“公共の福祉に反しない限り”という但し書きがあるので、なんでもかんでも自由に決められるわけではありません。
いかがでしたか。
大日本帝国憲法下での日本では、今では考えられないさまざまな制約がありました。
例えば、政府の悪口を言ったら逮捕されたり、徴兵制といって強制的に兵隊にさせられたり…。このように国民の自由や権利には国家による制限があったのです。
現在では日々のくらしの中で当たり前だと思うことでも、これらは日本国憲法で“基本的人権”が保障されているからであることを覚えておいてください。
国家による制限のない“基本的人権”、二度と戦争を起こさないという強い意志である“平和主義”、国民が主人公であるという“国民主権”。
私たちの生活の根幹である「日本国憲法」を知ることは、私たち日本人にとって重要なことであり、みなさんが大人になってもきっと役に立ちますよ。
中学3年生の公民
国会(立法)
ニュースや新聞などで、国会や内閣、裁判所のことはよく耳にすると思いますが、なんとなく身近には感じられない、遠い世界のことだと思っている人も多いのではないでしょうか。
公民の勉強をしていく上で、国会・内閣・裁判所は、日本国憲法と同じくらい重要な内容です。
~国会って何をするところ?~
国会とは大雑把に言えば、法律を作ったり、予算を決めたりするところです。
細かく言えば、景気や雇用、税金や社会保障、外交などが話し合われたり決定されたりします。
では、国会の立ち位置や役割、組織の形態など詳しく見ていきましょう。
国会(立法)
①国会の地位
国会は、国権の最高機関として政治の中心的な地位をもっています。
また、国会は唯一の立法機関であり、法律を作ったり変えたりすることは、国会以外のどの機関にも出来ません。このことは、日本国憲法の第41条に書かれています。
【第41条】
「国権の最高機関」と「唯一の立法機関」の2つは、一語一句、暗記してください。
国会の地位や位置づけのところでは確実にテストに出ますよ!
また、国の法律を作ることを“立法”といい、立法権をもっているのは国会だけということも覚えておいてください。
国会(立法)
②衆議院と参議院(二院制)
国会は、参議院と衆議院で構成されており、これを二院制といいます。
※二院制は両院制とも呼ばれています。
日本の国会で二院制が採られている理由は、例えば一方の議院で決めたことを、もう一方の議院でさらに検討することによって、物事を慎重に決めることができたり、一方の議院の行き過ぎを抑えたり、足りない所を補ったりすることが出来るためです。
もちろん、国民のさまざまな意見をより広く取り入れることができるためでもあります。
■ 二院制のメリット
● 行き過ぎ(暴走)を抑える
● 足りない所を補う
● 多くの意見を取り入れ
衆議院と参議院では、二院制のメリットを活かすために、議員(国会議員)の任期や解散のあるなし、選出方法などを別にしています。
衆議院は任期が短く(4年)、参議院は任期が長い(6年)です。また、衆議院には解散があり参議院には解散はありません。
このことから、衆議院は国民の意見を取り入れる機会が多いということを表しています。
■ 衆議院と参議院のちがい
衆議院 | 参議院 | |
---|---|---|
議員定数 | 465人 | 245人 |
任期 | 4年 | 6年 |
解散 | あり | なし |
被選挙権 | 25歳以上 | 30歳以上 |
※議員定数は2019年現在です。
※参議院の任期は6年ですが、3年ごとに半数が改選されます。
国会(立法)
③衆議院の優越
衆議院は参議院に比べると任期が短く解散もあるので、国民の意見を取り入れる機会が多いという特徴がありました。
そのため、衆議院は参議院よりもいくつか強い権限を持っていて、これを衆議院の優越といいます。
例えば、衆議院と参議院の意見(議決)が異なった時、いくつかの重要な点では衆議院で決まったことが優先されるというわけです。
■ 衆議院の優越の例
・予算の議決
・条約の承認
・内閣総理大臣の指名
※他にも色々ありますが上記の4つは暗記!
衆議院の優越は、次の「国会の仕事」でも触れていきますので、どんな事項において衆議院の議決が優越されてたかを覚えていきましょう。
国会(立法)
④国会のしごと
国会では、いろいろなことが決定されています。
“国会は唯一の立法機関”というように、主には法律を作ったり変えたり廃止したりすることが大きな仕事ですが、他にもたくさんの決定が国会でなされています。
■ 法律の制定
国会の仕事でメインとなるのが”法律の制定”です。 法律の制定が出来る“立法権”は国会だけが持つ権限です。
新しい法律を作るだけではなく、法律の内容を変えたり廃止したりすることも国会の仕事です。
法律というのは、憲法の次に強い抗力をもつルールで、数多くの種類があります。
⦿法律の制定までの流れ
衆議院や参議院の国会議員や内閣から法律案が提出され、委員会で審査されます。
その後、本会議で議決されます。
ここまでが衆議院だとしたら、もう一方の議院である参議院に送られ、同じように参議院の委員会、本会議で議決されます。
衆議院でも参議院でも可決されたら法律の成立です。
⦿衆議院の優越
参議院が衆議院と異なった議決をして、両院協議会でも意見が一致しなかったり、衆議院で可決された法律案を受け取った後、60日以内に参議院が議決しない場合は、衆議院に法律案が戻されます。
その後、衆議院で出席議員の3分の2以上の賛成で再可決されたら法律の成立です。
基本的には衆議院と参議院の両方の可決で法律が制定されますが、もし参議院が反対しても、衆議院だけによる再可決によって法律が制定できます。
このように、法律の制定には“衆議院の優越”が認められています。
■ 予算の議決
法律の制定の次に大きな仕事が、予算の審議・議決です。
予算というのは、国民が収めた税金などの収入をどのように使っていくかの見積もりを立てることです。
予算について審議をして議決するのは国会の仕事ですが、予算案を作るのは“内閣”の仕事です。
ここはややこしいので覚えてくださいね!
内閣が予算案を作成して国会に提出し、国会が審議をして議決します。
予算の議決=「国会」が行う
⦿予算先議権(よさんせんぎけん)
先ほどの「法律の制定」では、法律案の提出や議決は、衆議院からでも参議院からでもどちらでもよかったのですが、「予算の議決」は衆議院から先に審議が行われます。
衆議院→参議院(〇) 参議院→衆議院(×)
これを、衆議院の予算先議権といいます。
“法律制定先議権”や“内閣総理大臣の指名先議権”なんてものはありません。
衆議院から先に審議しなければならない先議権は“予算先議権”だけです。
⦿予算成立までの流れ
↓
②衆議院の委員会で審議(予算先議権)
(公聴会で国民の意見を聞く)
↓
③衆議院の本会議で議決
↓
④参議院の委員会で審議
(ここでも公聴会が開かれる)
↓
⑤参議院の本会議で議決
↓
⑥予算成立
⦿衆議院の優越
もし参議院で反対されたら…
衆議院で議決された予算が、参議院で30日以内に議決しなかったり、議決の内容が異なったりしたら“両院協議会”が開かれますが、それでも意見が一致しない時は、衆議院の議決が優先されます。
このように、予算の議決においても衆議院の優越が認められています。
■ 条約の承認
国と国とが結ぶ国際的な約束事を“条約”といいます。
ここでも少しややこしいのですが、実際に条約を結ぶ(締結する)のは内閣の仕事です。
条約を結ぶ前(場合によっては後)に、国会に条約を結ぶことを認めてもらう必要があります。
条約は「法」ですので、立法機関である国会の承認がないまま内閣が条約を結んでしまうと、国会の権限である「唯一の立法機関」を侵してしまうことになるからです。
条約の承認=「国会」が行う
紛らわしいですが、条約の締結(内閣)と条約の承認(国会)のちがいを覚えておいてください。
⦿衆議院の優越
国会の仕事である“条約の承認”にも衆議院の優越が認められています。
衆議院と参議院の議決が異なり、両院協議会でも意見が一致しない時は、衆議院の議決が国会の議決になります。
■ 内閣総理大臣の指名
内閣のトップである“内閣総理大臣の指名”も国会の仕事です。
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決によって指名されます。
ここでも似たような言葉で間違いやすいのが、“内閣総理大臣の任命”です。
任命は天皇が行いますので、指名と任命を間違えないようにしてください!
内閣総理大臣の任命=天皇が行う
⦿衆議院の優越
国会の仕事である“内閣総理大臣の指名”にも衆議院の優越が認められています。
衆議院と参議院の議決が異なり、両院協議会でも意見が一致しない時や、衆議院の議決後10日以内に参議院が議決しない時は、衆議院の議決が優先されます。
■ 内閣不信任案の決議
これは衆議院だけに認められた権限です。
内閣に対して不信任案が決議されると、内閣は10日以内に衆議院を解散するか、内閣を総辞職しなければなりません。
衆議院の解散というのは、すべての衆議院議員が4年の任期を待たずに一斉に議員の資格を失わせるということです。
解散後には40日以内に総選挙を行い、選挙の日から30日以内に特別国会が開かれて内閣総理大臣の指名が行われます。
内閣の総辞職というのは、総理大臣も含めたすべての国務大臣が一斉に辞任することです。
※国務大臣の職はなくなりますが国会議員の職は失われません。
総辞職の後は、新しい内閣総理大臣の指名選挙が国会で行われ、新しい内閣が誕生します。
■ 国政調査権を持つ
国政調査権は衆議院と参議院が持っている権限で、政治について調査することができます。証人喚問(しょうにんかんもん)といって、証人を議院に呼んで質問したり、政府に記録の提出を要求することができます。
■ 弾劾裁判所の設置
裁判所の独立によって、本来は身分が保証されている“裁判官”ですが、裁判官としてふさわしくない行為をしたり、裁判官としての職務を果たさなかった裁判官に対して、辞めさせるかどうかの判断をするのが弾劾裁判所(だんがいさいばんしょ)です。
弾劾裁判所は、衆議院7名、参議院7名の合計14名で構成されます。
■ 憲法改正の発議
日本国憲法を改正する発議を提出するのも国会の仕事です。
憲法改正には、衆議院、参議院の各3分の2以上の賛成で国会が発議します。
その後、国民投票の過半数の賛成で憲法改正となります。
国会(立法)
⑤国会の種類
国会には、通常国会、臨時国会、特別国会、参議院の緊急集会があります。
■ 通常国会(常会)
通常国会は、常会とも呼ばれています。
毎年1回、1月中に召集され、会期は150日間です。
主に次年度の予算の議決が行われます。
■ 臨時国会(臨時会)
臨時国会は、臨時会とも呼ばれています。
内閣が必要と認めたときか、衆参いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があったときに召集されます。
会期は両院の議決の一致により決められます。
■ 特別国会(特別会)
特別国会は、特別会とも呼ばれています。
衆議院解散後の総選挙から30日以内に召集されます。
特別国会では、内閣総理大臣の指名が行われます。
■ 参議院の緊急集会
衆議院の解散中に緊急の議決が必要とされた時に内閣の求めによって召集されます。
国会について、たくさんのことを学びました。
国会は衆議院と参議院で構成されていることや、それぞれの違いや役割は確実に覚えてください。
とくに“衆議院の優越”はメッチャ大事なポイント!テストにもよく出ますよ!
さらに!この後で学習する“内閣”との関係性は似たような言葉がたくさん出てきて大変です。
国会を理解するには内閣も理解する必要があるので、色々セットで覚えていってください!
中学3年生の公民
内閣(行政)
「内閣」もよく聞く言葉ですね。今の総理大臣は安倍晋三総理なので「安倍内閣」って呼ばれていますよね。(※2019年現在)
国会では、法律の制定や予算の議決などさまざまな仕事がありましたが、内閣ってどんなことをする所なのでしょうか。
~内閣って何をするところ?~
内閣はズバリ!行政を行うところです。
行政というのは、国会で決められたことを実際に行うことで、たくさんの仕事があります。
国会の仕事が「立法」で、内閣の仕事が「行政」というわけです。
では、具体的な内閣の構成や仕事(行政)を見ていきましょう。
内閣(行政)
①内閣の構成
内閣は、総責任者である内閣総理大臣と、その他の国務大臣によって組織されています。
内閣総理大臣は”首相”とも呼ばれますね。
内閣総理大臣は国会議員の中から国会の指名によって選ばれます。
国務大臣は内閣総理大臣が任命し、その過半数は国会議員でなければなりません。
内閣では閣議(かくぎ)を開いて、行政について話し合ったり決定したりします。
■ 閣議(かくぎ)とは…?
内閣総理大臣が主宰し、すべての国務大臣が出席する内閣の会議です。
閣議では行政についてさまざまなことが決められますが、国会の議決などと異なり“全会一致”が原則となります。
内閣(行政)
②内閣のしごと
内閣は行政を行うところですが、「行政」とひとことで言っても、法律の執行や予算案の作成、外交関係の処理や条約の締結などさまざまです。
基本的には、国会で決まったことを内閣が実行するという図式なので、国会の仕事と照らし合わせながら覚えていきましょう。
■ 法律の執行(しっこう)
国会で議決された法律を内閣が執行します。法律を実行する権利を「行政権」といいます。
法律の制定(立法権)は国会が持ち、法律の執行(行政権)は内閣が持っています。
執行とは、“実際に行う”という意味です。
法律の執行だけではなく、法律案の作成や提案も内閣が行える仕事です。
法律を制定できるのは国会だけですが、「こういう法律を作りたい」という提案は内閣も行えます。
法律の執行=「内閣」
法律案の作成=「国会、内閣」
法律案の提出=「国会、内閣」
また内閣は、法律を執行するために政令を制定することもあります。
政令とは、憲法や法律を執行するために内閣が出す“命令”のことです。
■ 予算の作成
予算の作成は内閣のみが持っています。
①内閣が予算案を作成し、②国会で予算の議決がされ、③内閣で予算を執行するという流れです。
ここでも国会と内閣の仕事がゴチャまぜにならないように注意してください!
②予算の議決=「国会」
③予算の執行=「内閣」
■ 条約の締結
外国と条約を結ぶ(締結する)ことも内閣のしごとです。
しかし、基本的には事前に国会による条約の承認(この条約を結んでもいいですよ!という許可)が必要です。
※緊急でやむを得ない場合は、事後(条約を結んだ後)に国会の承認を得ることも可能です。
条約の承認=「国会」
■ 最高裁判所長官の指名とその他の裁判官の任命
最高裁判所の長官は、内閣が指名して天皇が任命します。
その他の裁判官は、内閣が任命します。
“指名”と“任命”が紛らわしいので注意。
最高裁判所長官の任命=「天皇」
その他の裁判官の任命=「内閣」
■ 天皇の国事行為の助言と承認
国事行為とは、天皇が日本国憲法に定められた事柄を、形式的・儀礼的に行うことを言います。
天皇は政治に関する権限を一切持たないので、天皇が行う国事行為には必ず内閣の助言と承認が必要で、その責任は内閣が持ちます。
内閣(行政)
③議院内閣制
国会の役割である“立法”と、内閣の役割である“行政”について見てきました。
国会と内閣の関係は、日本では”議院内閣制”を採用しています。
※議院というのは国会のことを指します。
内閣のトップである内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の指名によって選ばれます。
さらに国務大臣の過半数は国会議員の中から内閣総理大臣が任命します。
このことから、内閣は国会の信頼のもとで存在しているということがわかります。
もし、国会が内閣の仕事が信頼できないと判断したら、国会(衆議院)は内閣に対して“内閣不信任の決議”を行うことができます。
内閣不信任案が可決されると、内閣は10日以内に衆議院を解散させるか、内閣を総辞職しなければなりません。
このように、国会と内閣はたがいに信頼関係と抑制によって均衡を図っていて、このようなしくみを“議院内閣制”といいます。
内閣について、その組織の構成や役割は理解できましたか?内閣総理大臣が国会によって指名されることや、法律の施行や予算の作成などの内閣のしごとについては確実に理解してくださいね。
国会と内閣の関係性は、国会が決めて内閣が実行するというのが基本ですよ。
中学3年生の公民
裁判所(司法)
できればお世話になりたくないのが裁判所…。
世の中にはたくさんの“もめごと”があります。
「お金を返してもらえない」
「自転車を壊されて弁償してもらえない」
このような“もめごと”は、それぞれが話し合いお互いに納得した上で解決することが望ましいのですが、そこは考え方が異なる人間同士…。
どうしても当人同士では解決できないことは、「法」という社会のきまりに則して、誰もが認める第三者によって裁いてもらう必要が出てきます。
ここでは“誰もが認める第三者”である”裁判所”について詳しく見ていきます。
裁判所(司法)
①裁判所の司法権
法に基づいて争いを解決することを“司法”といいます。
この司法を行使する権利を“司法権”といい、「すべての司法権は裁判所が持っている」と日本国憲法に規定されています。
【第76条】内閣=「行政権」
裁判所=「司法権」
裁判所(司法)
②司法権の独立
裁判は、正しい手続きによって厳格・公正を保たなければなりません。
裁判所は、国会や内閣その他の権力によって干渉されてはいけませんし、裁判官は自らの良心にしたがい、憲法と法律以外のなにものにも拘束されることなく独立して職務を行使するという原則があります。
このことを“司法権の独立”といいます。
■ 裁判官の身分保障
裁判官は、病気やケガなどによる心身の故障や、国会議員による弾劾裁判、最高裁判所の裁判官に対する国民審査によるもの以外で、在任中はその身分が保証されています。
裁判所(司法)
③裁判所の種類
裁判所には「最高裁判所」と「下級裁判所」があります。
下級裁判所には、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の4種類があり、それぞれ事件によって行う裁判所が異なります。
■ 最高裁判所
最高裁判所は、日本全国で1か所(東京都千代田区)だけしかない、すべての裁判所の中で唯一の最上級の裁判所です。
下級裁判所では判断できない裁判(憲法違反の事例など)や、第二審より上告された裁判を行います。
⦿長官と裁判官の指名と任命
最高裁判所の長官は、内閣の指名に基づいて天皇が任命します。
最高裁判所の裁判官(判事)は、内閣が任命し、天皇が承認します。
⦿三審制の最後が最高裁判所
日本の裁判制度には「三審制」という仕組みがあります。
これは1つの事件において、3回まで裁判を受けられるという仕組みです。
例えば、地方裁判所での1回目の判決(第一審)に納得が出来ない場合は、控訴(こうそ)して高等裁判所で2回目の判決(第二審)を受けます。
それでも納得が出来ない場合は、上告(じょうこく)して最高裁判所で3回目(最後の判決)を受けます。
上告=下級裁判所→最高裁判所
※民事裁判の上告は最高裁以外のケースもあり。
■ 高等裁判所
高等裁判所は、地方裁判所や家庭裁判所、簡易裁判所から控訴された事件を扱い、主に第二審の裁判を行います。
高等裁判所は日本全国に8か所あります。
■ 地方裁判所
地方裁判所は、通常は第一審の裁判を行う裁判所ですが、民事において簡易裁判所からの控訴を受けて第二審の裁判を行うこともあります。
地方裁判所は日本全国に50か所あります。
各都道府県の県庁所在地に1か所ずつと、北海道の函館市、旭川市、釧路市を合わせて、全部で50か所です。
■ 家庭裁判所
家庭裁判所は、家庭に関する事件や少年事件などを争う、第一審の裁判所です。
家庭裁判所の審理は、原則として非公開です。
家庭裁判所も地方裁判所と同じで日本全国に50か所あります。
各都道府県の県庁所在地に1か所ずつと、北海道の函館市、旭川市、釧路市を合わせて、全部で50か所です。
■ 簡易裁判所
簡易裁判所は、請求額が140万円以下の民事裁判や、罰金刑以下に該当する刑事裁判など、比較的軽い事件を扱う第一審の裁判所です。
簡易裁判所は、日本全国に438か所もあります。
裁判所(司法)
④民事裁判と刑事裁判
裁判には、民事事件を扱う民事裁判と、刑事事件を扱う刑事裁判があります。
■ 民事裁判
民事裁判は「人と人」や「人と企業」などの私人の間で争う裁判です。
例えば、貸したお金を返してもらえない場合や、離婚の協議、モノを壊されたりしたときの損害賠償の請求などです。
民事裁判の中で、国や地方公共団体に対して行う裁判は、行政裁判と呼ばれます。
⦿原告と被告
民事裁判では、訴える側の原告と、訴えられる側の被告にわかれます。
裁判官は、原告と被告の意見や主張を聞いて、和解を促したり、法に基づいて判決を下したりします。
■ 刑事裁判
刑事裁判は、殺人事件や傷害事件、窃盗事件や詐欺事件などの犯罪行為に対して、警察などの捜査機関が捜査して検察官が起訴すると行われます。
刑事裁判では、有罪か無罪を決定します。
⦿被疑者から被告人へ
警察などの捜査によって、罪を犯した疑いのある人を被疑者と呼び、場合によっては、被疑者を逮捕したり勾留(こうりゅう)したりします。
検察官が被疑者に対して刑罰を与えた方がいいと判断した場合は、裁判所に訴えて(これを起訴といいます)、被疑者は被告人となります。
被告人・・・検察官に起訴された人
両方とも「こうりゅう」と読みますが、漢字の違いで意味も異なります。
勾留・・・被疑者や被告人の身柄を拘置所などに拘束すること。
拘留・・・刑務所に入れられる刑罰
⦿人権の保障
日本国憲法では、強い権力をもつ警察や検察の捜査に行き過ぎがないように、被疑者や被告人の権利が保障されています。
例えば、身柄を抑える「逮捕」や、家の中の「捜索」には、裁判所が発行した令状(逮捕状や捜索令状など)が必要です。
拷問は禁止され、拷問による自白は証拠として認められません。
答えたくない事には黙っている権利(黙秘権)が与えられたり、弁護士を依頼する権利も保障されています。
裁判所(司法)
⑤裁判員制度
裁判員制度とは、一般市民が裁判員として刑事事件に参加して、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどのくらいの刑罰にするかを裁判官と一緒に決める制度で、2009年から始まりました。
裁判員制度では、3人の裁判官と6人の裁判員(一般市民)によって裁判を行います。
■ 裁判員制度が導入された理由
裁判員は一般市民の中から選ばれ、その人たちは当然、法律についてシロウトの人ばかりです。
法律のプロである裁判官だけではなく、あえて法律に詳しくない一般市民の意見や、日常的な感覚を裁判結果に反映させるためにこの制度が導入されました。
他にも、一般市民に司法への理解を深めてもらうことや、刑事裁判に対する信頼を高めてもらうといった目的もあります。
■ 裁判員制度の対象となる裁判
この制度が対象となるのは、重大な犯罪についての刑事裁判です。
例えば、殺人や強盗致死傷、傷害致死や危険運転致死、身代金目的の誘拐や放火など。
どれも重大な犯罪であることがわかりますよね。
裁判員が参加する裁判は、地方裁判所で行われる第一審のみで、控訴による第二審からは参加しません。
■ 裁判員の選ばれ方
裁判員は、満20歳以上の日本国民の中からランダムな抽選によって選ばれます。選ばれる確率は非常に低いのですが、選ばれてしまったら原則辞退は出来ません。
裁判は人の人生を大きく左右させるモノ。
そんな重要な決定に、法律に縁がなかった人が突然参加させられるのですから、出来れば避けて通りたいという人も多いと思います。
もしも裁判員に選ばれたら、特別な事情がない限り辞退することはできません。
例えば「仕事が忙しい」「その日は用事がある」といった理由では辞退ができないのです。
こんな場合は辞退することができます。
「満70歳以上」「学生」「重い病気やケガを患っている」「家族の介護や看病がある」「妊娠中または出産後8週以内」「災害被害者」など。
裁判所について、その立ち位置や種類、民事裁判と刑事裁判などは理解できましたか?
裁判所は国会や内閣に比べて「独立性」が非常に強く、他の国家権力からは一切干渉を受けないという「司法権の独立」も大きな特徴でした。
ここまで「立法権の国会」「行政権の内閣」「司法権の裁判所」を見てきました。
この3つが分かれていることを「三権分立」といいます。
次からは三権分立について見ていきます。
中学3年生の公民
三権分立
日本には「国会」「内閣」「裁判所」の3つの機関がありましたよね。
内閣=法律に沿って実行する“行政権”
裁判所=モメゴトを解決する“司法権”
このように、権力が1つに集まらないようにお互いに独立してそれぞれの役割を分担した“三権分立”の仕組みが作られました。
三権分立の理解は、国会・内閣・裁判所を学習する上でメチャクチャ重要なことなので、復習も兼ねてもう一度見ていきます!
三権分立
①三権分立の”国会”
立法権をもつ国会は、法律や予算を決めたりする機関です。
憲法にも「国権の最高機関」と書かれているように、国会は三権の中でも中心的な地位をもっています。
なぜ国会が「国権の最高機関」なのでしょうか?
それは、国会のみが唯一、主権者である国民から直接選挙で選ばれた代表者で構成されているからなのです。
また「唯一の立法機関」と定められている通り、法律を制定できるのは国会だけです。
そんなすごい権力を持っている国会ですが、内閣による“衆議院の解散”や、裁判所による“法律の違憲審査”を受けることがあります。
このように国会は、内閣と裁判所によって制限を受けて、権力の均衡を保っているのです。
三権分立
②三権分立の”内閣”
行政権をもつ内閣は、国会で決められた法律や予算を実際に実行する機関です。
内閣のトップである「内閣総理大臣」は、国会議員の中から国会の指名により選ばれ、国務大臣は内閣総理大臣の任命によって、過半数は国会議員の中から選ばれます。
つまり、内閣は国会の信任によって存在する機関であることがわかりますよね。
もし、内閣が国民の世論などによって「信用できない!」と判断されてしまうと、国会による“内閣不信任案の決議”を受けることがあります。
また、内閣も裁判所による”命令・規則・処分の違憲審査”を受けることもあります。
このように内閣は、国会と裁判所によって制限を受けて、権力の均衡を保っているのです。
三権分立
③三権分立の”裁判所”
司法権をもつ裁判所は、憲法や法律に基づいて争いごとを解決する機関です。
裁判所は、裁判の厳格・公正を保つために、いかなる国家権力の干渉によっても判決を左右されないという“司法権の独立”が保障されています。
司法権の独立は“裁判官の独立”とも解釈され、裁判官には強い身分保障が与えられています。
このように、いかなる権力にも屈しない高い独立性を保つ裁判所ですが、「最高裁判所長官の指名」や「その他の裁判官の任命」は内閣が行いますし、裁判官をやめさせるべきかを判断する「弾劾裁判所の設置」は国会が行います。
さらに、国民による最高裁判所の裁判官に対する国民審査もあるので、裁判所は、国会、内閣、そして国民の信任によって存在しているということなのです。
国会、内閣、裁判所のそれぞれの地位や役割は“三権分立”の仕組みを理解した上で学習することが大切です。
“三権”の抑制と均衡の関係は、テストでメチャクチャ出るので、覚えてくださいね!
中学3年生の公民
地方自治
これまで、日本国憲法や国の機関(国会の立法権・内閣の行政権・裁判所の司法権)について学習してきました。
これらはいずれも「国」という大きな単位の決まり事や運営方法です。
ここからは、国の中にある“地方”という小さな単位の政治や行政について学習していきます。
私たちの生活は、それぞれが住んでいる地域社会に基づいています。
例えば、雪がたくさん降る北海道と台風の多い沖縄県では、暮らしぶりや問題点なども異なりますよね。
地域によって異なる危機管理や住民サービスを、国という大きな単位ではなく、その地域ごとの小さな単位で政治や行政を行うしくみが地方自治なのです。
地方自治は、その地域で暮らす住民にとって身近な民主政治の場であるので「民主主義の学校」と呼ばれています。
地方自治とは、自分たちの地域のことは自分たちが責任をもって行うということ。
では、地方自治について、押さえておきたい学習ポイントを見ていきましょう。
地方自治
①住民自治と団体自治
地方自治は、その地域の問題解決や運営はその地域の住民の意志によって行うべきという“住民自治”と、国(中央政府)から独立した地域の団体によって行うべきという“団体自治”の2つを含みます。
■ 住民自治
地域のことはその住民の意志に基づいて行われるという地方自治における民主主義の要素を“住民自治”といいます。
例えば、首長(県知事や市長)、県議会議員や市議会議員を直接選挙したり、首長や議員、議会に対する直接請求権が認められるなどの、自分が住んでいる地域の政治や行政に対する住民参加のことです。
⦿直接請求権とは…?
例えば、首長や議員の仕事ぶりに問題があると判断されたら、住民投票を求め、その結果によってはその首長や議員をやめさせたり、議会を解散させることができます。
これを”リコール”といいます。
直接請求権には他にも、条例の制定・改廃の請求や、監査請求などがあります。
■ 団体自治
地方自治が中央政府(国)から独立した団体(地方公共団体)によって、自らの意志と責任において政治や行政が行われる自由主義の要素を“団体自治”といいます。
「住民自治」
地域のことはその住民の意志と責任において行うこと
「団体自治」
国から独立した地方自治体によって行政を行うこと
地方自治=住民自治+団体自治
住民自治は、民主主義的要素
団体自治は、自由主義的要素
地方自治
②地方公共団体
地方公共団体とは、その地域における政治や行政の機能をもつ団体で、一般的には“地方自治体”や“自治体”とも呼ばれています。
地方公共団体(地方自治体)は、都道府県や市区町村ごとに置かれ、例えば千葉県なら“千葉県庁”、船橋市なら“船橋市役所”、稲毛区なら“稲毛区役所”、大多喜町なら“大多喜町役場”などです。
■ 地方公共団体の仕事と役割
地方公共団体は、その地域の問題点やニーズによって、さまざまな住民サービスを行い、その地域の住民の生活を支えています。
例えば、下水道の設置やごみの収集、子育てのサポートや小中学校の設置、交通安全対策や放置自転車対策、介護や医療のサービスなどを行っています。
■ 地方公共団体の首長と議員
⦿首長(しゅちょう)
地方公共団体の長を首長(しゅちょう)といいます。首長は、都道府県知事や市区町村の市長や町長などです。
内閣のトップである内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の指名によって選ばれますが、地方公共団体の長である首長は、そこに住んでいる住民による直接選挙で選ばれます。
県知事選挙や市長選挙とか、聞いたことがありますよね。
首長は「しゅちょう」って読みます。
テレビとかで首長のことを「くびちょう」って言っているのを聞いたことがありませんか?正しい読み方は「しゅちょう」ですが、それだと市長(しちょう)と読み方が似ていて紛らわしいので、あえて「くびちょう」と発音しているそうです。
「化学」と「科学」が同じ読み方なので、区別するために化学を「ばけがく」と読むのと同じですね。
それでも首長は「しゅちょう」と読むのが正しいと覚えておいてください。
⦿地方議員
地方公共団体の議員(地方議員)というのは、県議会議員や市議会議員などをいいます。
地方議員も首長と同じように、住民による直接選挙で選ばれ、地方議員の数は、その地方公共団体の規模に応じて数人から百数十人とさまざまです。
⦿二元代表制
地方公共団体の首長と地方議員はそれぞれが住民による直接選挙で決められます。
このように、住民が2種類の代表者(首長と地方議員)を決めることを、”二元代表制”といいます。
⦿首長と地方議員の各年齢
選挙権 | 被選挙権 | |
---|---|---|
都道府県知事 | 18歳以上 | 30歳以上 |
市区町村長 | 18歳以上 | 25歳以上 |
地方議員 | 18歳以上 | 25歳以上 |
選挙権(投票できる権利)は国会議員と同じで「18歳以上」ですね。
被選挙権(立候補できる権利)は、知事は「30歳以上」で、その他の首長(市長や区長など)は「25歳以上」です。
■ 地方議会
国に「国会」という議会があるように、地方公共団体にも「地方議会」があります。
例えば、千葉県議会や船橋市議会など、地方議会は都道府県や市区町村ごとに設置されています。
地方議会の主な仕事は、条例の制定や予算の議決などです。
⦿条例とは…?
条例は、その地方公共団体の独自のルールです。
法律は国会の制定による“国全体のルール”で、条例は地方公共団体の制定による“その地域独自のルール”ということです。
例えば、「歩きタバコやポイ捨てはダメ」というルールは憲法にも法律にもありませんが、船橋市では「船橋市路上喫煙及びポイ捨て防止条例」という条例があり、人通りの多い船橋駅周辺や西船橋駅周辺の地域(重点区域)で違反すると2,000円の過料が科せられます。
※過料(かりょう)というのは、行政上の違反者に対してお金を支払わせる罰です。
罰金や科料(←こいつも「かりょう」って読みます)も金銭罰ですが刑法としての罰なので、罪の重さの違いとして区別されます。
このように条例は、その地域の課題や問題点などによって地方公共団体の議会で独自に定めることができますが、憲法や法律に反する条例は定めることはできません。
条例は地方議会によって決められますが、住民の直接請求権によって一定の署名を集めて地方自治体(市役所など)に持っていけば、話を聞いてもらえたり、実際に制定されたりすることもあります。
地方自治
③地方財政について
地方公共団体(県や市など)が税金などの収入を得てそれを支出する経済活動のことを”地方財政”といいます。
1年間で集まった収入を「歳入」といい、1年間で使った支出を「歳出」といいます。
※ここでの1年間とは4/1~3/31の期間を指し、これを“会計年度”といいます。
■ 国税と地方税
私たち国民が収めている税金には、国が集める“国税”と、県や市などの地方公共団体が集める“地方税”があります。
国税には、所得税や法人税、消費税などがあり、地方税には、住民税や固定資産税、自動車税や国民健康保険税などがあります。
※他にもたくさんの種類があります。
■ 自主財源と依存財源
⦿自主財源
地方公共団体が自らの権限に基づいて自主的に集めた地方税などの財源を“自主財源”といいます。
自主財源には地方税のほかに、手数料、使用料、財産収入、寄付金などがあります。
⦿依存財源
地方税などでまかなえない分を補う財源を“依存財源”といいます。
依存財源には、地方交付税交付金、国庫支出金、地方債などがあります。
<地方交付税交付金>
地方交付税交付金は、地方公共団体どうしの財政格差をおさえるために国から自治体に配分される補助金です。
例えば東京都のような大きな都市の自治体では、地方税だけで十分な収入を確保できますが、過疎地など人口や企業が少ない自治体だと、地方税などの自主財源だけではまかなえません。
地方交付税交付金は使い道が決められていないので、自治体が“自由に使えるお金”ということも覚えておいてください。
<国庫支出金>
国庫支出金も国から自治体に配分される補助金ですが、地方交付税交付金と大きく違うところは、国庫支出金は国から使用用途が決められている(使い道が決まっている)ということです。
たとえば道路整備のために国庫支出金をもらったら、道路整備のためだけに使わなければなりません。
しかも、その年度限りの補助金として設定されるので、もしも使い切らずに余ってしまった場合は、残ったお金を国に返さなければなりません。
年度末になると道路工事が増えるのは、もらった補助金をその年度で使い切りたいという理由があるからなのです。
<地方債>
税金などの収入だけでは必要な資金をまかなえない場合には、地方債を発行する場合があります。
地方債とは地方公共団体が発行する公債(こうさい)で、国が発行する公債は国債といいます。
地方債も国債も借金なので、利子を払い元金を返済しなければならないので、その発行は慎重に行う必要があります。
このように地方公共団体の財源には、各自治体が自ら集める「自主財源」と、国から援助される「依存財源」がありました。
自主財源のみで地域の運営ができるのが望ましいのですが、地域によっては地方債の発行(借金)や国からの補助金(地方交付税交付金や国庫支出金)に頼らざるを得ない自治体が数多くあります。
できるだけ国に頼らず地方だけの収入で行政ができるように、国に納める国税を減らして、地方に納める地方税を増やすといった試みがなされています。
所得税(国税)が減って住民税(地方税)が増えたのも、こういう理由からなのです。
中学3年生の公民
消費と経済
ここまでは国や地方公共団体のしくみを学習してきました。
日本国憲法や国会・内閣・裁判所、地方公共団体の役割やしくみなど、なんとなく私たちの生活からは少しなじみが薄いと感じられている中学生も多いかと思います。
ここからは“消費と経済”という、私たちの生活に思いっきり身近な内容を学習していきます。
例えば、コンビニに並んでいるパンやお茶などの商品は、それを“生産”した人や企業が必ずいますし、その商品を買うためには、“消費”といってお金を支払わなければなりません。
このように、生産と消費の繰り返しを「経済」や「経済活動」と呼びます。
消費と経済
①家計・企業・政府
経済の主体は大きくわけて、家計・企業・政府があります。
ここでは特に家計のことを理解してほしいのですが、企業と政府も経済活動を担っている大事な役割があるので、一緒に見ていきましょう。
■ 家計
「家計」とは簡単に言えば消費者であり、消費生活を営む単位のことをいいます。
消費者は、お金を払って商品を購入したりサービスを受けたりします。
また消費者は会社で働くなどの労働力を企業に提供し、所得(お給料)を得ます。
⦿所得と消費支出、貯蓄
おもに会社員や公務員などは“給料”、自営業はその事業で得た“利益”が家計の“所得”となります。
つまり家計の所得とは入ってくる収入のことです。
所得に対して、食費や衣服費、娯楽や医療費などの財やサービスに対する支出を“消費支出”といいます。
所得から消費支出や税金を差し引いた残りを“貯蓄”といいます。
消費支出=出ていくお金
貯蓄=残ったお金
⦿財とサービス
商品には”財とサービス”があります。
お店で売っている食べ物や飲み物、シャープペンや消しゴムなど、形のある商品を“財”といいます。
一方、電車やバスに乗ったり、床屋で髪を切ってもらったりなど、形のない商品を“サービス”といいます。
⦿家計を支えるお父さん、お母さん
お父さんやお母さんが一生懸命働いてお給料をもらっているからこそ、おいしいご飯を食べることが出来たり、カワイイ服を着ることが出来るのですよ。
■ 企業
「企業」とは、利潤の追求を目的として、財やサービスの生産や販売を行う経済主体の1つです。
企業は家計に対して商品を提供して利益を得て、家計は企業に労働力を与えます。
また、企業は政府(国や地方公共団体)に対して税金を払います。
■ 政府
「政府」は、家計や企業から得た税金を使って、財政活動を行います。
国や地方公共団体は、企業のように利益を追求するわけではないので、いわゆる「もうからないけど生活に必要なサービス」を提供しています。
警察や消防、道路や公園などは税金でまかなわれているのですよ。
消費と経済
②契約について
契約って聞くと、なんとなく固いイメージがありませんか?
細かい文字がたくさん書いてある契約書に名前とか住所とかを書いて、最後に印かんを押すみたいな…。契約書の控えをもらって大事に保管しなければならないとか…。
もちろん、家や車など大きな金額の商品を買う時とか、ローンを組むときなんかには契約書に記入・捺印をしますが、日々の生活の中でそんなシーンは滅多にありません。
それでも私たちは暮らしの中でいつも契約をしているのですよ!
■ 契約は双方の合意
契約というのは契約書を交わすことだけではなく、売り手と買い手の合意があれば成立します。
例えばコンビニで1本120円の缶コーヒーを買う時に、わざわざ契約書を交わしませんよね。
売り手の「120円で缶コーヒーを売ります」という意思と、買い手の「120円の缶コーヒーを買います」という意思の合意がなされれば契約が成立します。
この場合は、レジに缶コーヒーを持っていき、代金の120円を支払えば、缶コーヒーの売買契約が成立しているのです。
■ 消費者主権
経済活動には、商品を作る「生産者」と、商品を買う「消費者」が必要です。
生産者がモノを作って販売しようとしても、消費者が買ってくれないと経済は成り立ちません。
消費者が自分の判断で適切な商品を選び、自分の意志で商品を購入することができるという考え方を“消費者主権”といいます。
生産者がいくら買ってほしくても、消費者が「買いたくない」と思えば買う必要はありません。
企業(生産者)は常に、消費者にとってその商品の質や価格が満足できるものであるかを考え、消費者の意志によって買ってもらえるように、商品を開発・製造しているのです。
■ 契約自由の原則
私たちの社会では、基本的には個人の意思で自由に契約を結ぶことが出来ます。
契約をする・しないの自由や、だれと、いつ、どのような内容を、そのような方法で契約するかは自由です。もちろん契約には双方の合意が必要です。
これを“契約自由の原則”といいます。
ただし、その契約が法に違反していたり、公序良俗に反する内容だった場合には無効になります。
例えば、「あいつを殴ってケガをさせたら1万円支払う」「あの商品を万引きしたら3000円で買い取る」というような契約は、いくら契約自由の原則があっても全て無効となります。
他にも、相手をだましたり(詐欺)、脅かしたり(脅迫)しての契約は、取り消しが可能になります。
消費と経済
③消費者の権利
生産者や販売者はその商品知識を十分に持っていますが、消費者は売り手側が発する情報に頼らざるを得ないので、その情報にウソや誇張があっても気づくことが困難です。
「絶対やせます!」
「確実にもうかります!」
「どこよりも安い!」
このような広告によって財やサービスを購入した消費者が、実際には広告内容と異なり、不利益をこうむってしまうことがあります。
このように、消費者は販売者に対して不利な立場にあるので、国や地方公共団体が「消費者の権利」を保障していくことが重要です。
■ クーリング・オフ制度
「クーリング・オフ」とは、訪問販売や電話勧誘販売、キャッチセールスやマルチ商法などの取引で、契約後の一定期間内なら無条件で申し込みの撤回や契約の解除ができる制度です。
例えば訪問販売(自宅での契約)やキャッチセールスでは、自分の意志がはっきりしない状態で契約してしまうことがあるため、ある程度の時間をおくことで冷静に考える機会を与えるためにこの制度が導入されました。
クーリング・オフによる解約ができる期間は、ほとんどが契約日から8日以内ですが、マルチ商法や内職商法などは20日以内となります。
■ 製造物責任法(PL法)
製造物責任法(PL法)とは、商品の欠陥による健康被害や事故などで消費者が被害を受けたときに、その商品の代金のみに限らず、広い範囲の損害まで企業の責任を定めた法律です。
例えば、買ったテレビがいきなり爆発してケガやヤケドを負った場合、テレビの修理代金だけではなく、ケガの治療費や損害賠償をテレビのメーカに請求できるということです。
この法律ができる前は、整備がされていないボロボロの中古バイクが安く販売されていました。
その中古バイクを買った消費者が、バイクの欠陥によって事故を起こしても、自己責任ということでバイク販売店などに損害賠償請求はできませんでした。
PL法が制定されてからは、中古販売業者は未整備の中古バイクを売ると、その欠陥による事故の損害賠償を請求されることもあるので、整備のされていない中古バイクの販売はされなくなりました。
■ 消費者契約法
消費者契約法とは、不当な勧誘や不当な契約条項の無効等を規定している消費者を守るための法律です。
消費者と事業者(売り手など)とでは、情報の量や交渉力に差があるので、巧みな営業トークによる不当な勧誘や、消費者が不利になる契約書の条項などは、消費者保護の観点から無効となります。
具体的には、事実と異なる説明をされたり(不実告知)、必要な量を大きく超えた分量を契約させたり(過量契約)、不確実なことを確実だと断定したり(断定的判断の提供)、営業マンが強引に居座ったり(不退去)などです。
さらに、消費者の利益を不当に害する内容は、たとえ契約書に記載されていても無効となります。
■ 消費者基本法
消費者基本法とは、消費者の権利の尊重と、消費者の自立支援を基本理念とし、2004年に消費者保護基本法から改正された法律です。
明記されている消費者の権利とは、安全の確保、合理的な選択、必要な情報の提供、教育機会の提供、消費者の意見の反映、消費者被害の救済です。
国・地方公共団体の責務、事業者の責務、消費者の責務が明記されています。
消費と経済
④消費者を支える流通
私たちが商品を買う時には、メーカーや生産者のところに直接出向いて購入したりはしませんよね。
食料品などはスーパーやコンビニなどの“小売業者”から購入しています。
スーパーに行けば、肉や魚、野菜や果物、他にもたくさんの商品が並んでいます。
家電量販店に行けば、テレビや冷蔵庫、パソコンやスマホなどの電化製品や、最近ではゲームソフトやプラモデルまで販売されています。
このように店頭に並ぶさまざまな商品は、どのように仕入れられて、運ばれているのでしょうか。
ここでは、生産された商品が消費者に届くまでの“流通”について説明します。
■ 流通とは…?
企業や農家などの生産者が、商品を工場や倉庫などに運んだり、それを保管したり、小売店などに運んで、最終的に消費者に商品を届けるまでの一連の流れを“流通”といいます。
⦿一般的な流通例
生産者が作った商品を、問屋と呼ばれる卸売業者が買い取ります。
卸売業者はスーパーやコンビニ、デパートなどの小売業者が買い取り、そのお店に並んだ商品を私たち消費者が買います。
生産者から消費者に届けるためには、商品を運んだり(運送業)、商品を保管したり(倉庫業)しますので、そこには運送費や保管費、人件費などの費用がかかります。
⦿流通の合理化
生産者から消費者まで商品が届くまでにはさまざまな費用がかかります。
複雑な経路や多くの中間業者が入ると、運送費や保管費、人件費や保険料などの費用が多くかかってしまい、結果として商品の価格が上がってしまいます。
そこで流通費用を抑えるために、大手のスーパーや百貨店などの大規模小売業者や、コンビニエンスストアやチェーン店では、商品を生産者から直接仕入れたり、一度にまとめて仕入れたりするなどして、流通費用の削減を図っています。
⦿インターネット通信販売
昨今では、アマゾンや楽天市場、ヤフーショッピングなど、インターネットの通信販売が拡大しています。
ネット通販では、消費者がパソコンやスマホなどで商品を選び、クレジットカードや銀行振り込み、代引きなどで購入し、商品が自宅に配送されます。
小売業者から消費者の自宅までの配送料はかかりますが、お店や店舗で商品を販売するよりも店舗の家賃や販売員の人件費がかからないので、トータルでは店舗よりも安く購入することができます。
⦿経済活動を支える流通
1本150円の牛乳を買うために、高い旅費をかけてわざわざ牧場まで買いに行くなんてことはしませんよね。
流通のしくみがなかったら、生産者は商品を売ることが困難になりますし、消費者は商品を買うことが困難になります。
私たち消費者がいつでもかんたんにコンビニやスーパーとかで欲しい商品を買うことができるのは、流通のしくみが成り立っているからなのですよ。
中学3年生の公民
生産と労働
ここまでは消費者の目線で学習してきましたが、ここでは生産者について学習します。
生産者とは、商品を作ったり販売したりする“企業”のことであり、企業はそこで働く人たちによる労働力や設備といった生産要素をもとに、さまざまな財やサービスを生産します。
企業の最大の目的は利潤の追求(お金儲け)です。
「お金儲け」って聞くと、なんとなくいやらしい感じがするかもしれませんが、企業がお金儲けをすることは経済活動においてとっても大切なことです。
企業は消費者に「この商品を買いたい」「このサービスを受けたい」と思ってもらえるような努力をして、たくさんの商品を買ってもらい利益を得ることによって、社員や従業員にお給料を支払うことが出来ますし、国や地方公共団体に税金を納めることができるのです。
企業が生産活動を行う上では“資本”が必要です。
企業の建物や土地、商品製作のための機材や道具など、利潤追求の元となる資金のことを“資本”といいます。
このことから、私たちの経済は“資本主義経済”と呼ばれています。
生産と労働
①さまざまな企業
企業って聞くと、なんとなく“大きな会社”っていうイメージがありませんか?
もちろん大きな会社も企業の1つですが、個人商店のように小さなお店も立派な企業です。
企業には大きく分けて“私企業”と“公企業”があります。
私企業には個人企業や法人企業があり、公企業には地方公営企業や独立行政法人があります。
■ 私企業(しきぎょう)
私たちが“企業”と呼ぶのは一般的には私企業のことを指しています。
私企業とは冒頭でもお話ししたように、利潤を追求する民間企業のことをいいます。
私企業には農家や個人商店などの個人企業や、株式会社などの法人企業があります。
■ 公企業(こうきぎょう)
公企業とは、利潤目的ではなく公共の目的のために活動する国や地方公共団体の企業です。
ガスや水道、市営バスなどを経営する地方公営企業や、住宅金融支援機構や国際協力機構(ジャイカ)などの独立行政法人があります。
■ 大企業と中小企業
日本の企業には大企業と中小企業があります。
なんとなく大企業はすごい企業で安心、中小企業は不安…、なんていうイメージはありませんか?
そんなことは全くないですよ!
中小企業は、日本の企業数でおよそ9割、従業員数でおよそ7割です。
つまり、中小企業が日本の経済を引っ張っているのです!
大企業でも赤字の会社もあれば、大企業以上に収益を出している中小企業もたくさんあります。
大企業と中小企業は、資本金と従業員数で区別されています。
業種によって区別の定義が異なりますが、例えば製造業の場合は、資本金が3億円以下もしくは従業員数300人以下の企業が中小企業で、それ以上が大企業というわけです。
生産と労働
②株式会社のしくみ
私企業には、個人企業と法人企業に大きく分けられましたよね。
個人企業は農家や個人商店のような個人経営を行っている企業で、自営業や個人事業主ともいいます。
対して法人企業というのは、法人として登記されている企業で、株式会社や有限会社などがあります。
ここでは法人企業の代表的な“株式会社”について学習します。
■ 株主と株式会社
株式会社というのは、“株主”が出資した資金で運営されている会社です。株主は、その会社の“株式”を買って資金を出します。
会社の経営者は、株主が出資した資金を使って会社を設立し、従業員を雇い、経済活動を行い、利益(もうけ)を出します。
利益の一部を、株主に“配当”として渡します。
会社がたくさんもうかれば、株主はたくさんの配当金を受け取れるので得をしますね。
しかし、会社がもうからずに株価が下がったり、会社が倒産してしまうと、損をしてしまうこともあります。
株主は、株主総会に出席できる権利を持っていて、経営方針などの意見を言ったり、重要な取り決めの議決をすることもあります。
会社がもうからないと株主は損をしてしまうことがあるので、たくさんの株式を持っている大株主や筆頭株主と呼ばれる人は、経営者(会社の役員)を辞めさせたり出来る強い権限も持っています。
経営者はそうならないように、会社経営を一生懸命行い、株主のために利益を出そうと努力するのです。
株主が受け取れる配当の金額や、株主総会での議決権は、持っている株式の数によって決まります。
⦿株式会社って誰のモノ?
なんとなく会社って会長とか社長のモノって感じがしますよね。
個人経営の会社は事業主のモノですが、株式会社は社長のモノでも従業員のモノでもありません。
株式会社は“株主”のモノです!
※経営者が会社の株式を所有することもあります。
■ 株式の売買
規模が大きく業績の良い株式会社など、一定の条件を満たした会社は、証券取引所で株の売り出しが認められます。
証券取引所で株の売買が認められることを“上場”といいます。
上場している企業はごく一部の大企業で「いつかは上場したい!」という目標を持っている経営者も多いです。
上場した企業の株式は、証券会社という中間業者を通して売買されます。
一般の人が直接、証券取引所で株式を売買することはできません。
⦿株価の変動
株式の価格を“株価”といいます。
上場した会社の株式は、証券取引所によって売買され、株価はその会社の売り上げ実績や将来への期待などによって決まります。
株価はたくさん買われると上がり、たくさん売られると下がります。
株価が安い時に買って、高くなったら売ればお金がもうかりますが、逆に損をしてしまうリスクもあるので、株式の売買は正しい知識と日々の社会情勢の勉強の上、慎重に行われます。
「株で損して借金まみれ」になってしまう人たちもたくさんいるようです…。
生産と労働
③労働者の権利
労働者は、働くことによってお給料を得て生活を安定させています。
もちろんお金のためだけではなく、その人の生きがいや社会貢献、社会参加のために働いている人もたくさんいます。
労働が国民の権利であり義務でもあることは、日本国憲法でもやりましたよね。
■ 使用者と労働者
使用者というのは雇い主のことです。
雇い主というのは、会社や経営者、社長などその形態によってさまざまですが、ここではお給料を支払う雇い主のことを“使用者”といいます。
労働者は使用者に対し“労働力”を提供し、使用者はその対価として労働者に“賃金”を支払います。賃金というのはお給料のことですね。
賃金(お給料)や労働時間などの労働条件は、基本的には使用者と労働者との“契約”によって決められます。
⦿労働者は弱い立場
社長と従業員では、社長のほうが偉い感じがしますよね。
社長に逆らったら給料を下げられたり、解雇(クビ)になったり…。ドラマとかでもそういうシーンを見たことがあると思います。
このように、労働者は使用者に対して弱い立場にあるので、不当な労働をさせられないように「労働者の権利」が法律で保障されています。
代表的なモノが“労働三法”と呼ばれる法律です。
■ 労働三法
労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の3つが、「労働三法」と呼ばれる労働者の権利を守る代表的な法律です。
⦿労働基準法
労働基準法は、労働者が人に値する生活を営むために定められた法律で、労働時間や賃金、休日などの労働条件についての最低基準が定められています。
例えば、1日20時間の長時間労働や1日も休みがない労働など、すべて法律違反となり使用者には罰則が適応されます。
労働基準法には、例えばこんなことが書かれています。
・労働者が女性であることを理由に賃金の差別をしてはいけない
<労働時間について>・1週間で40時間を超えて労働させてはいけない
・1日8時間を超えて労働させてはいけない
<休日について>・1週間に1日以上の休日を与えなければならない
<深夜労働について>・18歳未満の者を22:00~5:00の間に働かせてはならない。
※交代制の場合は16歳以上の男性についてはこの限りではない
※他にも最低限の労働条件が制定されています。
⦿労働組合法
労働組合法は、労働基準法の保障が目的で制定されました。
労働者が労働組合を結成することや、労働組合が争議行為を行うことが保障されています。
労働組合って?
労働条件の改善などを目的として労働者が結成する団体です。
日本国憲法で定められている“労働三権”に基づいて結成されます。
団結権
労働者が使用者と対等な立場で話し合うために団結する権利
団体交渉権労働組合が使用者と労働条件などを交渉できる権利
団体行動権労働条件を改善するために、集会やストライキを起こすなど使用者側に争議抗議できる権利
弱い立場の労働者が強い立場の使用者に、1人で交渉するのは大変ですし不利になってしまいます。
労働組合は労働者が団結することで使用者と対等に交渉でき、納得できない場合は使用者に争議抗議できるという役割と権利があります。
公務員のストライキは禁止!
”争議抗議”っていうのは、よりよい労働条件を使用者に認めてもらうために、業務の正常な運営を阻害することです。
仕事を放棄する“ストライキ”が有名で、団体行動権で保障されています。
しかし、公務員がストライキを行うと大変なことになってしまいます。
例えば警察官や消防士がストライキを起こすと、犯罪行為が増えたり救急車や消防車が出動されなかったりして、社会機能が停止してしまいます。
このことから、公務員はストライキが禁止されているのです。
⦿労働関係調整法
労働関係調整法は、使用者と労働者の関係を調整するために作られた法律です。
労働者は組合を作り、使用者(会社側)に対して団結して交渉して、それでも解決できないときには団体行動(ストライキなど)が出来る権利があります。
しかし、ストライキがずっと続いてしまうことはお互いに良いことではありません。
会社側も労働者側も、早く解決してストライキが解除され、正常な業務に戻ることが好ましいです。
このようにストライキなどが行われている場合に、その早期解決のために労働委員会の調整手続きを設けて、使用者(会社側)と労働組合との関係を調整する法律が “労働関係調整法”なのです。
※労働関係調整法の詳細は中学生のテストではほとんど出ないので、労働三法の1つとして名前だけは覚えておいてくださいね。
生産と労働
④労働者の雇用形態
使用者が賃金を支払って、労働者を雇うことを“雇用”といいます。
雇用にはさまざまな形態があって、正社員や派遣社員、パート・アルバイトなど、聞いたことがありますよね。
かつての日本では、高校や大学を卒業したら“正社員”として企業に就職し、その企業で定年を迎えるまで勤め続ける“終身雇用”や、年齢が上がるにつれて賃金が上昇していく“年功序列”が一般的でした。
しかし現在では、景気の悪化により長く勤めていても給料が上がらなかったり、解雇の対象になったりと、終身雇用と年功序列が崩れてきています。
近年ではかつては一般的であった“正社員として就職する”といった雇用形態が減少し、パートやアルバイト、契約社員や派遣社員といった“正社員以外”の雇用形態の割合が増加してきています。
労働者の雇用形態は、大きく分けて“正規労働者”と“非正規労働者”に分けられます。
■ 正規労働者(正社員)
正規労働者とは、使用者との間に期間の定めのない労働契約を結んでいる労働者で、簡単に言えば“正社員”のことです。
正社員以外の雇用形態を“非正規労働者”と言い、正規労働者である正社員は非正規労働者に比べると賃金が高く解雇されにくいという傾向があるので、高校や専門学校、大学を卒業した後は正社員を目指して就職活動をします。
⦿正社員のメリット
正社員の最大のメリットは、雇用が安定しているということです。
よほどの理由がない限り会社をクビになることがなく、ほとんどが定年までは働くことが出来ます。
非正規労働者にはほとんどない「ボーナス」や「退職金」、「福利厚生」など、金銭面や保険面でもメリットがあります。
⦿正社員のデメリット
企業にもよりますが、正社員は異動や転勤をさせられるケースもあります。
仕事に対する責任が強く、自分がやりたくない仕事も任されることが多ので、希望通りの仕事が出来るとは限りません。
■ 非正規労働者(正社員以外)
非正規労働者とは、正社員以外の雇用形態で働く労働者のことをいいます。
パート・アルバイト、契約社員、派遣社員と呼ばれる労働者で、一般的には正社員に比べると賃金が安く、雇用契約の期間も短いため、生活が不安定になりがちです。
非正規労働者は、企業にとって都合の良い雇用とされています。
例えばスーパーなどの販売店では、お客さんがたくさん来て忙しい時間帯と、あまり来ないヒマな時間帯がありますよね。
忙しい時間帯にはたくさんのアルバイトを入れて、ヒマな時間帯には入れないなど、細かい調整をすることによって人件費を抑えることが出来ます。
「短期間だけ働きたい」「自分の好きな時間だけ自由に働きたい」という人にとっては、あえて非正規労働者として働くケースもありますが、正社員になりたくてもなれずに非正規労働者として余裕のない生活を送っている人もたくさんいるようです。
⦿パート・アルバイト
「パート」も「アルバイト」も法律上はまったく同じで、一律にパートタイム労働者といいます。
パートタイム労働者は、1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働者に比べて短い労働者と定義されています。
通常の労働者というのは、一般的には正社員のことをいいます。
「芸人が売れるまでバイトで生活費を稼ぐ」なんてことを聞いたことがありますよね。
他に本業ややりたいことがある人(学生とか芸人活動とか)で、お小遣い程度や生活費の一部を稼ぎたい人にとっては、働く時間が短くてある程度の時間の融通が利くパート・アルバイトがいいかもしれません。
⦿契約労働者(契約社員)
契約労働者とは、原則3年以内の短期間の労働契約の労働者をいい“契約社員”とも呼ばれています。
契約社員は、その人の専門能力に期待されて雇用されるので、得意分野を最大限に活かした仕事ができるのが最大の特徴です。
プログラミングや文章制作のライター、デザイナーやカメラマンなどの個人の能力によってたくさん稼ぐことができます。
契約社員は正社員と違って、副業を禁止されることがないので、複数の企業と契約を結んで幅広い仕事で活躍することも可能です。
近年では、”フリーランス”という言葉が定着しつつあります。
インターネットのSNSなどを最大限に活用し、正社員のように特定の企業だけに属さずに、さまざまな業種や企業と自由に契約を結び、自分のスキルを使って仕事をする人たちです。
同い年の正社員よりも何倍も大きく稼げる人もたくさんいるようです。
これだけ聞くと、正社員よりも契約社員の方が魅力的に感じる人もいると思いますが、フリーランスで稼ぐためには高い専門能力が必要ですし、企業との契約期間が短いので収入は不安定になりがちです。
また、家や車を購入するときのローンが組めなかったり、クレジットカードが作れないケースもあるようです。
⦿派遣労働者(派遣社員)
派遣労働者とは、人材派遣会社と雇用契約を結んで、他の企業に派遣されて働く労働者で、“派遣社員”とも呼ばれています。
<派遣社員は“3者関係”>
今まで出てきた正社員、パート・アルバイト、契約社員のように、使用者と労働者の2者関係ではなく、派遣社員は“派遣元・派遣先・派遣労働者”の3者関係になります。
派遣社員は、働く企業(派遣先)の社員ではなく人材派遣会社(派遣元)の社員です。
仕事の職場や命令などは派遣先で行われ、賃金は人材派遣会社から支払われます。
<派遣社員のメリット>
派遣社員は自分のライフスタイルに適した職場条件を見つけやすいというメリットがあります。
たとえば「家の近く」「残業なし」「週2回」など、正社員や契約社員ではなかなか難しい条件の仕事を見つけることも可能ですし、パート・アルバイトよりも賃金が高い傾向にあるので、子育て中のママさんにも人気の仕事形態です。
<派遣社員のデメリット>
一番のデメリットは、雇用が不安定で契約期間が終わると更新をしてもらえずに契約終了となることもあります。
「派遣切り」という言葉があるように、企業の景気が悪くなると、真っ先に切られてしまうのが“派遣社員”であることも多いのです。
このように、正規労働者と非正規労働者はさまざまな違いがありました。
雇用の安定や収入の大きさでは、正規労働者(正社員)のほうがよく、一家の大黒柱であるお父さんはほとんどの方が正社員ですね。
他にやりたいことがある人や、学生や主婦などで時間の自由がほしいという人は、非正規労働者のほうが適しています。
以前は正規労働者(正社員)の割合が非常に多く、1990年ではおよそ80%が正社員で、20%が非正規労働者でした。
2019年現在では、非正規労働者の割合が約38%と非常に多くなっています。
20年前と比べて現在では、少子高齢化やIT革新などで雇用の形態が大きく変わってきました。外国人労働者数も増加し、コンビニで働いている外国人もよく見かけますね。
今後もAI(人工知能)などの技術進歩によって、さらなる労働の変化が起こるかもしれませんね。
中学3年生の公民
市場経済のしくみ
これまで見てきたように、私たちの経済は、商品を作る“生産”と、商品を買う“消費”が中心で成り立っています。
企業は商品を作り、企業で働く労働者はお給料をもらって、そのお給料で今度は消費者として商品を購入します。
このように、企業と消費者はお互いの商品売買によって経済が回っているのです。
特定の商品を売ったり買ったりできる機能を“市場”といいます。
ここでの市場は「しじょう」と読み、一定の商品を大量に卸売りなどを行う「いちば」とは少し意味が異なるので注意してください。
日本国憲法でも“経済活動の自由”が保障されているように、私たちの生活では、財やサービスを自由に買ったり売ったりすることができます。
このように、自由にものを売り買いできる社会を“市場経済”といいます。
読み方は「しじょうけいざい」ですよ。
ここでは市場経済のしくみを学習していきます。
市場経済のしくみ
①需要と供給
「需要と供給」は市場経済のしくみを見ていく上でとっても重要ですので、暗記するだけではなくて具体的に理解していきましょう。
消費者が「買おう」とすることを“需要”といい、消費者が買おうとする量を“需要量”といいます。
生産者が「売ろう」とすることを“供給”といい、生産者が売るために生産する量を“供給量”といいます。
「需要」と「供給」は「じゅよう」と「きょうきゅう」って読みます。
■ 価格で決まる需要と供給
商品には必ず“価格”がつけられており、価格は売り手が自由に決めることができます。
価格には、その商品の生産コストや販売コストに加え、利益を上乗せさせています。
高い価格で売ることができれば、利益(もうけ)が大きくなるので生産者は嬉しいですが、その価格で消費者が買ってくれるとは限りません。
⦿価格が上がると…
需要量が減少し、供給量が増加
一般的には、商品の価格が上がると需要量は減少し、供給量が増加します。
例えば、今まで1個100円だったアンパンが、味も大きさも同じなのに、ある日いきなり300円になったら買いたくありませんよね。
このように、価格が上がると「商品を買いたい」という需要量が下がります。
でも生産者は、1個300円で売れたら利益が増えるので「商品を売りたい」という供給量が上がります。
⦿価格が下がると…
需要量が増加し、供給量が減少
商品の価格が下がると需要量は増加し、供給量が減少します。
例えば、今まで1個300円だったメロンパンが、味も大きさも同じで250円に価格が下がったらたくさん買いたくなりますよね。
このように、価格が下がると「商品を買いたい」という需要量が上がります。
でも生産者は、1個250円にしたら利益が減るので「商品を売りたい」という供給量は下がります。
価格が上がると…
→需要量が下がり、供給量が上がる
価格が下がると…
→需要量が上がり、供給量が下がる
⦿需要と供給で価格が変わる
これまで価格に対して需要量と供給量の変化を学習しましたが、逆に、需要量と供給量によって価格が変わることもあります。
一番わかりやすいのが“株価”です。
「この株がほしい!」という人がたくさんいて、“買い”が増えれば株価が上がりますし、逆に「この株はほしくない…」「この株を手放したい…」という人がたくさんいれば、株価は下がります。
買いたい人がたくさんいるというのは「需要が高い」ということです。
売りたい人がたくさんいるというのは「供給が高い」ということです。
需要が高ければ価格は上がり、供給が高ければ価格は下がるのです。
需要量と供給量が一致すると、商品価格が一定となって、市場は需要と供給のバランスがとれた均衡状態となります。
この状態の価格を、”均衡価格”といいます。
市場経済のしくみ
②市場価格の変動
需要と供給のバランスが取れた価格を”均衡価格”といいます。
均衡価格というのは、売りたい価格と買いたい価格が”一致している価格”ということです。
そして実際に商品が市場で売買される価格を“市場価格”といいます。
均衡価格と市場価格の関係はとっても大事ですのでがんばって理解していきましょう。
■ 市場価格は均衡価格に近づく
① 均衡価格 < 市場価格
例えば、均衡価格(需給バランスが取れた価格)が1000円の商品があるとします。
売り手は少しでも高く売ろうと思い、1300円という価格をつけました。
市場価格=1300円
② 均衡価格 > 市場価格
ところが1300円ではなかなか売れず、売り手は価格を800円に下げました。
(いきなり下げすぎですが…)
市場価格=800円
③ 均衡価格 = 市場価格
800円に値下げをしたらたくさんの人が買ってくれたので、今度は供給量(商品の数)が足りなくなってしまいました。
そこで、売り手は1000円に値上げしました。
市場価格=1000円
これで均衡価格と市場価格の価格が同じになりましたね。
商品はちゃんと売れますし、供給量(商品の数)もちゃんと保てています。
このように、価格の決め方は均衡価格が基準になり、市場価格は均衡価格に近づく傾向にあるのが市場価格の原理なのです。
■ 均衡価格は変動する
市場価格は均衡価格に近づく傾向にあることがわかりました。
均衡価格は需要と供給のバランスによって決められますが、もちろん均衡価格も変動します。
例えば天候などの影響で「タマネギ」が不作だった場合、スーパーに並ぶタマネギの価格は大きく上がってしまいます。
生産者はいつもより高い価格で買ってくれないと赤字になってしまうので「もうかるため」ではなく「やむを得なく」価格を上げるしかないのです。
逆に、豊作などでたくさん作りすぎてしまった場合は価格が下がります。
野菜や果物、肉や魚などは長期間の保存ができないので、売れ残ってしまったら廃棄するしかありません。
廃棄処分はとてもモッタイナイですし、だったら安い価格でも買ってくれた方が生産者にとってもありがたいですよね。
このように、とくに生鮮食品は天候の影響などで均衡価格は変動しやすく、同時に市場価格も大きく変わっていく傾向があるのです。
市場経済のしくみ
③独占と寡占
■ 競争による健全な市場
商品やサービスを購入する際に決め手となるのは、消費者にとっての「満足度」です。
「満足度」は商品の質や価格によって決まっていくので、企業などの生産者は、消費者にとって「価格が安くて質が良い商品」を作る努力をしています。
企業同士の「競争」があり、競争することによって安くて良い商品が開発されていくのですが、そこには市場競争に誰でも自由に参加できるように保たれている必要があります。
テレビやパソコン、冷蔵庫や洗濯機などの家電を見てみても、10年前の性能と比べると劇的に良くなっていますよね。
価格は物価の上昇に伴って高くなる傾向はありますが、昔の液晶テレビはすごく高かったのですよ。
企業努力と企業間の競争のおかげによって、商品の質はどんどん良くなり、私たちの生活も豊かになっています。
■ 「独占」と「寡占」
では、企業間の競争がなくなってしまったらどうなるでしょうか?
たとえば、1社もしくはごく少数の企業のみが掃除機を生産して販売するとします。
消費者(買い手)は掃除機のメーカーを選ぶことができなくなるので、掃除機はそのメーカーから買うしかありません。
企業は利益を追求するので、なるべく高い価格で売ろうとしますし、競争相手がいないので掃除機の性能も向上しないかもしれません。
このように企業間の競争がない状態ですと、私たち消費者にとって不利益が生じてしまうことがあるのです。
⦿独占
商品を供給する企業が1社の場合を”独占”といいます。
⦿寡占(かせん)
商品を供給する企業が少数の場合を”寡占”(かせん)といいます。
⦿独占禁止法と公正取引委員会
独占や寡占は、価格の上昇や商品の質の低下など、消費者にとって不利益を生じさせてしまうので、国は独占や寡占のような競争を妨げる行為を”独占禁止法”という法律によって禁止しています。
独占禁止法に基づき、公正取引委員会によって自由競争妨害の取り締まり運用がされています。
独占禁止法と公正取引委員会はセットで覚えておいてください。
■ 公共料金はちょっと例外
独占や寡占は自由競争の妨げになり、私たち消費者にとって不利益になることがわかりました。
しかし、公共料金と呼ばれる国民生活に与える影響が高い商品やサービスについては例外で、国や地方公共団体が価格を決めたり認可を与えたりしています。
たとえば、電気・ガス・水道・鉄道・バス・郵便料金などは、生活に与える影響が高いですよね。とくに電気・ガス・水道は安定的に供給されないと、健康や命にもかかわってしまいます。
公共料金は、サービスの供給と価格を安定させるために、国や地方公共団体の監視下によって独占や寡占が認められているのです。
市場経済のしくみ
④貨幣と金融
■ 貨幣の役割
私たちの日常で行っているモノの売買。その中で中心的な役割を担っているのが「お金」です。お金のことを貨幣(かへい)といいます。
皆さんのお父さんやお母さんは、一生懸命働いて「お金」をお給料としてもらっています。
だから皆さんは美味しいものが食べられますし、カワイイ靴や洋服も着られるのですよ。
⦿貨幣はとても便利なモノ
スーパーやコンビニなどのお店では、お金(商品の代金)を出せば欲しい商品が買えます。
現在ではインターネットでも銀行振り込みや代引き、クレジットカード決済などで簡単に欲しい商品が手に入ります。
貨幣はとても便利なモノで、お札や小銭は財布に入れて持ち運ぶことが出来ますし、銀行や郵便局に預けておくことも出来ます。
日本中のどこに行っても貨幣の価値は共通なので、北海道でも沖縄県でも1万円の価値は1万円です。
⦿物々交換だったら…
もしも「お金(貨幣)」という存在がなかったら、欲しいモノを「物々交換」で手に入れるしかありません。
大昔の日本では「物々交換」や「自給自足」が行われていました。
例えば「肉」が欲しくて自分が持っている「魚」と交換しようと思ったら、肉を持っていて魚を欲しがっている人を見つけなければなりません。
そのような人を見つけるのも大変ですし、時間がかかってしまったら魚が腐ってしまいますよね。
このように物々交換だと非常に不便ですので、さまざまな知恵のもとで、貨幣という便利なモノが生まれたのです。
■ 金融のしくみ
金融とはお金の貸し借りのことです。「お金を融通(ゆうずう)する」から「金融」と言うわけです。
中学生のみなさんには馴染みが薄いかもしれませんが、例えば家や自動車などの高価なモノを購入するときには「ローンを組む」のが一般的です。
消費者が銀行などの金融機関からお金を借りて、毎月決まった金額を分割払い返済していくという形ですね。
消費者だけではなく、企業も設備投資などで大きなお金が必要なときに銀行からお金を借りることもあります。
もちろん、お金を借りるときには“審査”というものがあり、ちゃんと返済が出来るかどうかをチェックして、審査に通った場合のみ借りることが出来るというワケです。
一般的にはお金を貸すのは「銀行」で、お金を借りるのは「家計」や「企業」ですが、他にも様々な形態があります。
⦿直接金融と間接金融
出資者が直接お金を出資する(貸す)ことを直接金融といいます。
直接金融で代表的なものは株式や債券(※)で、お金を出す出資者を「投資家」とも呼びます。
お金を借りた時の証明書を「債券」といいます。
債券には企業は発行する社債、国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債などがあります。
「債権」と漢字を間違えやすいので気を付けてください。
一方、銀行などの金融機関が集めた預金などから家計や企業にお金を貸すことを間接金融といいます。
家計がお金を借りるときには間接金融が一般的です。
企業もかつては間接金融が一般的でしたが、近年では投資家に直接出資をしてもらう直接金融も盛んに行われています。
市場経済のしくみ
⑤銀行の役割
私たちがお金を預けたり、間接金融によってお金を借りたりするときの代表的な金融機関が「銀行」です。
銀行には「都市銀行」や「地方銀行」などさまざまな種類があります。
みなさんが住んでいる町や駅の近くにも銀行ってよく見かけますよね。
■ 銀行の利益(もうけ)
銀行ではさまざまな仕事を行っていますが、主な仕事はズバリ!家計や企業の貯蓄を預金として集めて、それを家計や企業に貸し出すことです。
⦿預金を集める
例えば、今手元に100万円あったらどうしますか?大金ですよね。お財布にも入りませんし、家に置いておくとドロボーに狙われるかもしれません。
今すぐ使う予定のない「現金」は、手元に置いておくよりも銀行に預けた方が安全ですし、預け入れたお金(預金)には、その金額や期間に応じて利子(利息)がもらえます。
このように銀行は家計や企業から預金を集めて利子を支払います。
⦿預金を貸し出す
銀行は集めた預金を家計や企業に貸し出して、その利子(利息)によって利益を出します。
銀行が貸し出すときの金利は、預金に対する金利よりも高いので、その差額が銀行の利益(もうけ)となります。
元金(借りた(貸した)元の金額)に対する利子の比率を金利といいます。
例えば100万円に対して金利が1%だとすると利子が1万円になるので、返済の合計金額は101万円ということになります。
もちろん家計や企業から預かっている大切なお金を、誰にでも簡単に貸し出すことはしません。
借り入れようとする個人や企業の収入、他の金融機関からの借入状況や返済状況など、さまざまな角度から審査を行い、返済が可能かどうかを見極めた上で貸し付けを行います。
このように銀行は家計や企業にお金を貸して利息を受け取ります。
他にも株や為替による資産運用や、各種振込手数料、電気代などの引き落としにかかる振替手数料なども銀行の利益となります。
■ 預金通貨と現金通貨
「預金通貨」とは、銀行などに預けられているお金のことを言います。
「現金通貨」とは、銀行などに預けられていないお金(つまり手元にある現金)のことを言います。
⦿預金通貨
銀行に預金があると、その預金の範囲内でさまざまな支払いが出来ます。
たとえば、電気代や水道料金などの光熱費、毎月かかる家賃やローンなどは、現金で支払うよりも預金から自動的に引き落とされる方が便利です。
このように銀行に預けられている通貨を預金通貨といいます。
預金通貨は日本で出回っている貨幣全体の約9割を占めているそうです。
⦿現金通貨
預金通貨に対して、手元にある現金を現金通貨といいます。
一万円札や千円札などの紙幣や、500円玉や100円玉などの硬貨が現金通貨です。
■ 日本銀行の役割
世界には”中央銀行”という特別な銀行があり、日本の中央銀行は”日本銀行”が担っています。
日本銀行は今までお伝えしてきた銀行とはその役割が大きく異なります。日銀(にちぎん)とも呼ばれていてテレビとかでよく聞きますよね。
⦿日本銀行は「発券銀行」
日本銀行は「日本銀行券」という紙幣(お金)を発行する役割があります。
現在、日本で使われている紙幣は、一万円札、五千円札、二千円札、千円札ですね。
日本銀行は紙幣を発行する「発券銀行」としての役割があるのです。
⦿日本銀行は「政府の銀行」
日本銀行では政府の資金を預金として預かり、その出し入れを行う「政府の銀行」としての役割もあります。
私たち国民が国に納める税金や社会保険料などは日本銀行に集められ、管理されます。
このような日本銀行が管理している政府のお金を「国庫金」といいます。
⦿日本銀行は「銀行の銀行」
日本銀行は、一般の銀行に資金の貸し出しや預け入れを行っています。
銀行がお金を預けたり借りたりする銀行なので「銀行の銀行」と呼ばれています。
ちなみに私たち個人や企業は、日本銀行からお金を借り入れや預け入れを行うことは出来ません。
日本銀行の口座を持てるのは一部の金融機関と政府に限られます。
市場経済のしくみ
⑥景気と金融対策
テレビのニュースとかで「不景気」とか「景気対策」という言葉を耳にしますよね。
景気っていうのは経済活動全体の動きを意味しますが、なんとなくわかりにくいですよね。
「景気」とは簡単に言えば「世の中のほとんどがもうかっているかどうか」という意味です。
「ほとんど」というのは「全員」という意味ではないので、景気が良くてももうかっていない人や企業もありますし、景気が悪くてももうかっている人や企業もあります。
■ 好景気と不景気
⦿好景気(好況)
景気が良い状態を「好景気」または「好況」といいます。
好景気だと商品はたくさん売れて企業の利益が増えます。
企業の利益が増えるとそこで働く労働者の給料も増えるので、家計はお金を使いやすくなります。
家計がお金をたくさん使うということは、商品がたくさん売れるということなので、さらに企業の利益が増えてお給料も上がります。
好景気になると、企業はもうかるし、株価は上がるし、失業率は下がるし、お給料やボーナスも増える…(嬉)
このように一般的には、好景気はみんながハッピーっていうことですね。
⦿不景気(不況)
景気が悪い状態を「不景気」または「不況」といいます。
不景気だと商品がなかなか売れないので企業の利益は増えず、赤字になってしまうケースもあります。
企業の利益が減ると労働者の給料も上がらないので家計がきつくなります。
家計の収入が減ると、財布のヒモがきつくなって商品が売れなくなります。
不景気になると倒産する会社やお店も増えてしまいます。お給料も減ってしまうし、失業者も増えてしまいます…(泣)
このように一般的には、不景気はみんながアンハッピーということです。
⦿インフレーション(インフレ)
好景気になると消費が増えるので、商品の需要(欲しいという気持ち)が増えます。
需要が供給(売りたいという気持ち)を上回ると、物価が上がり続けるインフレーション(インフレ)が起こりやすくなります。
インフレによって物価が急激に上がると今度は商品が売れにくくなります。
商品が売れないという事は、企業の利益が減り、不景気になるということです。
好景気はインフレを起こしやすく、インフレによって不景気になる…ということです。
⦿デフレーション(デフレ)
不景気になると消費が減り、商品の需要(欲しいという気持ち)が減ります。
需要が減ると供給(売りたいという気持ち)が需要を上回るようになって、物価が下がり続けるデフレーション(デフレ)が起こりやすくなります。
デフレによって物価が下がると企業の利益が減り、家計の収入も減ります。
家計の収入が減ると消費も減るので、さらに物価が下がり企業の利益が減ります。
このように物価の下落と企業の利益減少が連続して起こる“悪循環の状態”をデフレスパイラルといいます。
■ 日本銀行の金融政策
好景気は「みんなハッピー」と言いましたが、過剰な好景気はインフレを起こしやすく、インフレによって不景気になってしまうことがあります。
不景気は「みんなアンハッピー」ですので、好景気を取り戻すためにさまざまな対策が考えられ実行されます。
インフレやデフレによる物価の変動を抑えて、景気の安定を図るための日本銀行による政策を「金融政策」といいます。
⦿インフレを抑えるために…
インフレで物価が上がりすぎているときは、日本銀行が銀行に国債などを売り銀行の手持ちの資金を減らします。
銀行は手持ちの資金が減るので、企業への貸し出しに慎重になり、貸出金利も引き上げられます。
企業は資金を借りにくくなるので、生産活動が縮小されて景気が抑えられます。
⦿デフレから脱却するために…
不景気によってデフレが起こり、物価が下がっているときは、日本銀行が銀行から国債などを買い取り銀行の手持ちの資金を増やします。
銀行は資金が増えると、企業への貸し出しに積極的になり、貸出金利も引き下げられます。
企業は資金を借りやすくなるので、生産活動が活発となり景気は回復へと向かいます。
中学3年生の公民
税金と財政
これまで家計や企業を中心に学習しましたが、ここからは「政府のお金」について学習します。
政府というのは、ここでは「国」や「地方公共団体」のことを指します。
「政府のお金」って、なんとなく自分には関係のない“遠い話”のような気がするかもしれませんが、政府がどのようにお金を集め、どのように使われているかを知ることは、私たち国民にとって、ものすごく大切なことですよ。
国や地方公共団体(政府)の経済活動を”財政”といいます。
政府は国民の税金によってお金を集めて、医療や福祉などの社会保障や、道路や橋などを造る公共事業などのさまざまな形でお金を使います。
お金を集めることを「収入」といい、お金を使うことを「支出」といいます。
税金と財政
①税金について
税金にはさまざまな種類があり、誰が・どこに・いくら税金を支払うかは、すべて法律で決められています。
もしも意図的に税金を納めなかったりしたら、それは法律違反となり、最悪のケースだと逮捕されてしまうこともあります。
日本国憲法でも「納税は国民の義務」と書いてあるように、税金を納めることは国民の強い義務であることを覚えておいてください。
■ 税金の種類
税金には、国が集める「国税」と、地方公共団体が集める「地方税」があります。
さらに、直接、国や地方公共団体に納める「直接税」と、商品を買う時などは小売店などに支払い、小売店が納める「間接税」があります。
⦿直接税
直接税とは、納税者(個人や企業)が、国や地方公共団体に直接納める税金です。
お給料など個人の収入にかかる「所得税」や、企業の利益にかかる「法人税」、自分の住んでいる自治体(地方公共団体)に納める「住民税」や「固定資産税」なども直接税です。
⦿間接税
間接税とは、納税者が小売店などを通して間接的に納める税金です。
皆さんがよく知っている「消費税」は、商品代金と一緒にお店に支払っていますよね。
お店が預かった消費税は、のちにお店が国に納めるので、間接的に支払う形になっています。
消費税のほかにも「酒税」や「たばこ税」、「ゴルフ場利用税」や「入湯税」など、いったんお店や施設に支払ってから、お店が国や地方公共団体に納めるさまざまな種類の間接税があるのです。
■ 税金の公平性
税金は国民が公平に負担されなければなりません。同じ金額のお給料なのに自分だけ税金が高いというのは納得できませんよね。
税金の公平性を保つために、所得が高い人が多く税金を納める累進性な税金と、所得が低い人でも同じ金額の税金を納める逆進性な税金の組み合わせによって、調整されているのです。
「累進」とは数字が大きくなるほどそれに対する割合も大きくなるということで、
「逆進」とは数字が小さくなるほどそれにたいする割合が大きくなるということです。
⦿高所得者ほど税率が高くなる
所得税や相続税などの「直接税」には、所得が多くなるほど税率が高くなる「累進課税」(るいしんかぜい)という方法がとられています。
1年間の所得(年収)が200万円の人と800万円の人では、800万円の人のほうが税率が高いというわけです。
⦿低所得者ほど税率の割合が高くなる
一方、消費税などの「間接税」は、所得に関係なく同じ税率の税金を負担しなければなりません。
高所得者でも低所得者でも、モノを買うときの消費税は同じ税率です。
同じ税率ということは、低所得者ほど所得に対して納める税金の割合が大きくなるということなので、このことを「逆進性」といいます。
直接税の税率が上がるということは高所得者が不利になり、間接税の税率が上がるということは低所得者が不利になるということです。
消費税の増税は低所得者にとって痛手となるのです。
税金と財政
②税金の使われ方
国民の生活を公平かつ豊かにしていくために、政府は重要な役割を担っています。
税金によって集められた財源は、道路や公園、学校などの「社会資本」や、教育、医療、消防、警察、社会保障など「公共サービス」として、私たちの生活に役立てています。
■ 税金で運用する理由
例えば、警察や消防の仕事は、国民の命や生活を守り、治安を維持していくためにとても重要です。
しかし、その仕事自体には利益を生まない(もうけが出ない)ので、利益追求を第一義とする民間企業だけでまかなうことは困難です。
そこで政府が税金を使ってこれらのサービスを行っているのです。
■ 社会資本と公共サービス
⦿社会資本とは…?
道路や港湾、公園や上下水道、空港や鉄道、病院や学校など、私たちの生活にとって重要な基盤となる公共施設のことを「社会資本」といいます。
⦿公共サービスとは…?
警察や消防、教育や医療、生活保護・失業保険・公的年金といった社会保障など、国民の生命や財産を守り、治安維持などに役立てている公的なサービスを「公共サービス」といいます。
このような社会資本や公共サービスは、国民や企業が納めた税金によってまかなわれています。
そこには、たくさん税金を納めている人も、まったく納めていない子供たちも、平等にサービスを受けられるしくみになっています。
※年金や失業保険などは少し異なります。
税金と財政
③政府による財政政策
“景気と金融政策”でもお話ししましたが、市場経済が好景気だと企業の利益は増えて個人のお給料も増えるので、税収(歳入ともいいます)も増えますよね。
歳入(政府に入るお金)が増えるということは、歳出(政府から出ていくお金)も増やすことができるので、よりよい公共サービスが実現できるというわけです。
逆に市場経済が不景気だと税収(歳入)が減ります。当然、歳入が減れば歳出も減るので、公共サービスに使えるお金が減ってしまいます。
政府は景気の安定のために歳入や歳出を通じてさまざまな政策を行います。
このことを「財政政策」といいます。
■ 不景気のときの財政政策
不景気のときは、公共事業への支出(公共投資)を増やして民間企業の利益を増やしたり、減税を行い家計の消費を増やしたりします。
また、税金だけではまかなえない場合は、公債(こうさい)を発行して資金を借り入れます。
公債には国が発行する「国債」と地方公共団体が発行する「地方債」があります。
公債は簡単に言えば“借金”です。いずれは利子を付けて返さなければいけないものなので、将来の世代にその負担を先送りすることにもなります。
「お金が無くなれば借りればいいや!」という安易な考え方は破滅を招いてしまうので、公債の発行は慎重に行わなければなりません。
■ 好景気のときの財政政策
好景気のときは、公共投資を減らして民間企業の仕事を減らしたり、増税を行い家計の消費を抑えたりします。
「好景気だからいいじゃん!」って思うかもしれませんが、好景気によって物価が上がり続けてしまうとインフレが起こりやすくなり、インフレによって不景気に陥ってしまうことがあります。
好景気のときでも不景気にならないように財政政策は行われるのです。
中学3年生の公民
社会保障について
日本国憲法の第25条では、基本的人権の一部として「生存権」が定められています。
ケガ、病気、老齢、失業などで生活が困難になってしまったときに、国が個人の生活の保障を行う制度が「社会保障」です。
【第25条】①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
日本の社会保障制度には、社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生の4つを基本的な柱にしています。
この4本柱はテストでもよく出るので、それぞれの特徴などをしっかり理解してください!
①社会保険、②公的扶助、③社会福祉、④公衆衛生の4つですよ!
社会保障について
①社会保険
社会保険は、国民が毎月保険料を支払い、病気や高齢になった時などに給付を受けるという仕組みです。
社会保険には医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険などがあります。
■ 医療保険
病気やケガなで病院にかかったときに、一部の負担で治療を受けられるのが「医療保険」です。
例えばむし歯とかで歯医者に行ったら「保険証」を出しますよね。保険証は医療保険に加入している証明書のようなもので、治療費や薬代の負担金額が3割になりとても安く済みます。
もしも医療保険に加入していなかったら治療費などを全額負担しなければならないので、とっても高額になってしまいます。
⦿国民皆保険(こくみんかいほけん)
公的な医療保険(サラリーマンが加入する「健康保険」や、自営業者などが加入する「国民健康保険」など)は、すべての日本国民に加入する義務があります。
これを国民皆保険(こくみんかいほけん)といいます。
■ 年金保険
高齢者になったときなどにお金を受け取れる「年金」も社会保険の1つです。
年金は高齢になった時に受け取れる「老齢年金」のほかにも、病気やケガで障害者になったときに受け取れる「障害年金」や、家計を支えていた家族がなくなった時に、その遺族が受け取れる「遺族年金」などがあります。
⦿年金の加入先
年金は職業などによって加入先が異なります。
サラリーマンなどは「厚生年金」、自営業者やパート・アルバイトなどは「国民年金」、公務員は「共済年金」に加入します。
⦿国民皆年金(こくみんかいねんきん)
年金は20歳を過ぎると、すべての日本国民に加入する義務があります。
これを国民皆年金(こくみんかいねんきん)といいます。
■ その他の社会保険
社会保険と言えば、医療保険と年金保険が代表的ですが、他にも、失業したときに支給される「雇用保険」や、仕事中のケガや、仕事が原因で病気になったときに支給される「労働災害保険」、介護が必要な人にその費用が給付される「介護保険」などがあります。
社会保障について
②公的扶助
公的扶助(こうてきふじょ)とは生活保護のことです。
収入が少なくて(収入がなくて)最低限度の生活が出来ない人に、生活費や教育費などを支給して自立を助ける「生活保護法」に基づく制度です。
病気やケガ、障害などを持つ家族の介護など、働きたくても働けない人はたくさんいます。
このような人たちを“たすける”ために生活保護という公的扶助があるのです。
両方とも「たすける」という意味です。
■ 生活保護の扶助種類
生活保護にはその内容によって、さまざまな種類があります。
どれも「扶助」という言葉が入っていて「たすける」という意味でしたね。
⦿生活扶助
日常生活に必要な「食費」や「光熱費」などを計算して支給されます。
⦿住宅扶助
アパートなどの「家賃」を定められた範囲内で支給されます。
⦿教育扶助
義務教育を受けるために必要な「学用品」や「給食費」などを規定の基準額で支給されます。
⦿医療扶助
「医療サービスの費用」は本人負担なしで全額支払われます。
⦿介護扶助
「介護サービスの費用」は本人負担なしで全額支払われます。
他にも、いくつかありますが、上記の種類は覚えておいてください。
■ 生活保護を受けるには…?
生活保護は誰でも受給できるわけではありません。
支給される生活保護費は国民から預かっている税金から支出されるので、生活保護を受けるためにはその条件を満たす必要があります。
⦿生活保護を受けるための4条件
生活保護は個人ではなく世帯(一緒に暮らしている家族)の単位で支給されるので、家族全員が以下の4つの条件を満たしている必要があります。
①資産を持っていない人
貯金や持ち家、車などの資産を持っている人は生活保護を受けられません。
②働くことができない人
病気やケガ、家族の介護などが理由で働けない人は生活保護を受けられます。
高齢者などで働けなくても年金をもらっている人は収入があるとみなされるので受給されません。
③他の公的制度を受けられない人
国民年金や障害年金など他の保障制度を受けられる場合は、その制度の利用を先に受ける必要があります。それでも生活費が苦しい場合は生活保護を受給できる場合もあります。
④援助してくれる親族がいない人
自分に収入や資産がなく、働くことが出来なくても、親や兄弟などの親族に資産があって援助可能だと判断されれば生活保護は受給できません。
生活保護の支給は上記のような条件をすべて満たした上で判断されますが、近年では不正受給などの問題が数多く報道されています。
本当は働けるのに働けないとウソをついたり、受給されたお金でパチンコなどのギャンブルをしたりと、問題視されるケースも多くあるようです。
生活保護の制度は、本当に困っている人が利用する最後の手段であることを覚えておいてください。
社会保障について
③社会福祉
社会福祉とは、高齢者や障害者、母子家庭や子供など、社会的に弱者と呼ばれる人たちに公的な支援を行う制度です。
■ 社会福祉の4つの分類
⦿高齢者福祉
老人福祉とも呼ばれています。
老人ホームや老人介護福祉センター、訪問介護など、高齢者の方へ向けたさまざまな福祉サービスが行われています。
⦿障害者福祉
身体や知能、精神に障害を持っている方に対して、自立を支援する制度です。
障害を持つ人でも健常者と同様の生活が出来るように支援すべきであるというノーマライゼーションの考え方によって実施される福祉サービスです。
⦿母子・父子・寡婦福祉
母子家庭や父子家庭に対して支援を行う福祉サービスです。
寡婦(かふ)とは、夫と離婚や死別をして再婚していない女性のことをいいます。
⦿児童福祉
児童に対して行われる福祉サービスです。
児童手当や児童扶養手当、障害児福祉手当などの金銭的援助や、子育ての相談や児童虐待の指導や保護のための児童相談所の設置などがあります。
これらの4つの福祉サービスを総じて「社会福祉」と呼ばれています。
社会保障について
④公衆衛生
公衆衛生というのは、病気や感染の予防や衛生の環境整備によって、人々が健康で安全な生活が送れるようにする制度です。
具体的には、感染症対策、上下水道整備、廃棄物処理、公害対策などが挙げられます。
※他にもたくさんあります。
■ 感染症対策
皆さんがよく聞く感染症と言えば、インフルエンザではないでしょうか?
インフルエンザはその型などにより症状は異なりますが、主な特徴としては、人にうつりやすい(感染しやすい)ということです。
国や地方公共団体では、インフルエンザが流行しているときにはテレビなどのメディアを通して注意喚起を促したり、予防接種をすすめたりしていますよね。
他にも風しん・はしかの抗体検査や予防接種が安く受けられるなど、さまざまな「感染症対策」が行われています。
■ 上下水道整備
「上水道」というのは、飲むことが出来る水の供給設備のことを指します。
一般的には「水道」と呼ばれていますね。
日本では水道から出てくる水は消毒されているので、飲んだり料理に使ったりすることができます。
外国では国によっては水道水が飲めない(消毒されていない)場合があるので注意してください。
「下水道」というのは、台所やトイレ、お風呂などで使った水を、キレイにして海や川に返す設備のことをいいます。
生活で使った水だけではなく、雨水も浸水を防ぐために海や川に排水する役割もあります。
このように上水道や下水道が整備されているおかげで、私たちの生活にかかせない「水」を安全に利用することができるのです。
■ 廃棄物処理
「廃棄物」とは、かんたんに言えば「ごみ」のことです。
燃えるごみや燃えないごみ、粗大ごみやプラスチックごみなど、他にもたくさんのごみの種別があります。
これらの廃棄物を収集、運搬、中間処理、最終処理を行うことを「廃棄物処理」といいます。
みなさんは「ごみ出し」を手伝ったことはありますか?
たとえば(月)(木)が「燃えるごみ」で(火)(金)が「プラスチックごみ」、第二水曜日が「燃えないごみ」など、曜日によって出せるごみの種類が変わることがあります。
ごみ出しのルールは住んでいる自治体(市や町)などによって異なりますが、これらのルールを守ることによって、廃棄物処理が円滑に行われるのです。
廃棄物処理が適正に行われることによって、私たちの町はいつもキレイな状態が保たれているのですよ。
■ 公害対策
工場などからでる排水処理や排煙処理が不十分のため、そこに含まれる有害物質によって周辺の水や空気が汚染されて、人々に健康被害を与えてしまうことを「公害」といいます。
さらに公害とは、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭の7つが典型的だと言われています。
かつて日本では「四大公害」と呼ばれる、水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくを経験してきました。
これらの反省から、法律の整備などによってさまざまな「公害対策」が行われています。
社会保障について
⑤少子高齢化の問題
日本では、若い現役世代が減り、仕事を引退した高齢者が増えていくという「少子高齢化」が進んでいます。
少子高齢化が進むと、社会保障にさまざまな問題が生じていきます。
■ 年金問題
少子高齢化による最大の問題だと言われているのが「年金問題」です。年金問題はテレビのニュースなどでよく耳にしますよね。
年金は働いている現役世代の人々から保険料という名目で徴収されて高齢者に支払われます。働けなくなった高齢者にとっては、年金制度はとてもありがたい制度です。
ところが、少子高齢化によって働く現役世代の人口が減り高齢者が増えていくと、集められた保険料(年金)だけでは足りなくなってしまいます。
そのため、年金の支払い率を引き上げて保険料を増やしたり、支給額の減額や支給年齢の引き上げなどで対策を行っていますが、いずれは限界を迎え、年金制度は崩壊するとも言われています。
■ 高齢者の医療費問題
若い人に比べると高齢者の方は体調を崩しやすく、医療費も高額になってしまいます。
実に高齢者は現役世代の4倍の医療費がかかっていると言われています。
医療費の自己負担額は社会保険の制度によって安く抑えられておりますが、その財源は現役世代から集められた保険料によって賄われています。
少子高齢化によって現役世代から集められる保険料が減り、支払われる医療費が増えるので、年金問題と同じように、保険料の引き上げや自己負担額の増加などに発展してしまう可能性があるのです。
■ 介護保険と後期高齢者医療保険
少子高齢化に対応して、2000年から「介護保険制度」が施行されました。
介護保険は40歳以上のすべての人が加入し、介護が必要になったときに介護サービスが受けられる制度です。
また、75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」という独自の医療保険もあります。
このように、少子高齢化に対する保険制度の対策が行われています。
中学3年生の公民
環境問題について
「環境問題」は、その時代などによって形が変わってきています。
単純に工場などから出る汚染物質による「公害」だけではなく、地球上の環境問題が世界中で問題になっています。
地球温暖化や熱帯雨林の減少、砂漠化など、地球規模においてさまざまな問題を抱えており、私たち一人一人が日々の生活の上でこのような問題を知り、意識していくことが大切なのです。
環境問題について
①公害の歴史
「公害」とは、企業の生産活動や私たちの生活において、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭によって、人々の健康や生活環境に関わる被害が生じることをいいます。
■ 足尾銅山鉱毒事件
日本における公害の原点は、1890年以降十数年間にわたって発生した「足尾銅山鉱毒事件」であると言われています。
足尾銅山は現在の栃木県日光市にあった銅山で、鉱石を掘り起こし多くの銅を産出していました。
鉱石を発掘してさまざまな加工をして純粋な金属を取り出すのですが、その過程において、有害ガスや有害汚水などが周辺の環境に著しい影響を及ぼしました。
栃木県の政治家であった、田中正造氏が中心になって国に問題提起したことでも有名な事件です。
■ 四大公害病
戦後の高度経済成長の過程において、工場などから排出される水質汚染や大気汚染によって、深刻な公害が相次いで起こりました。
なかでも被害が大きかった、新潟県の新潟水俣病、三重県の四日市ぜんそく、富山県のイタイイタイ病、熊本県の水俣病は、「四大公害病」と呼ばれています。
これらの四大公害病では、被害に遭われた方々は裁判を起こし、全てにおいて患者側が全面勝訴となっております。
⦿水俣病(熊本県)
1956年ころから熊本県水俣市で発生した、有機水銀による水質汚染です。魚類の食物連鎖を通じて人々に健康被害が生じました。
発生した地名にちなんで「水俣病」と呼ばれています。
⦿新潟水俣病(新潟県)
1964年ころから新潟県の阿賀野川の流域で起きた、有機水銀による水質汚濁です。魚類の食物連鎖を通じて人々に健康被害が生じました。
熊本県で起きた水俣病と同じ症状が確認されたため、「第二水俣病」とも呼ばれています。
⦿イタイイタイ病(富山県)
1910年代から1970年代前半に富山県神通川入域で発生した、カドミウムによる水質汚濁です。米などを通じて人々に健康被害が生じました。
患者はその痛みに「痛い痛い」と泣き叫ぶことから「イタイイタイ病」という病名となりました。
⦿四日市ぜんそく(三重県)
1959年ころ三重県四日市市で発生した、亜硫酸ガスや窒素化合物による大気汚染です。ぜんそくや気管支炎など、のどを痛める健康被害が生じました。
発生した地名にちなんで「八日市ぜんそく」を呼ばれています。
四大公害病などで被害が広がったことを受けて、公害に対する批判が世論で広まり、各地で”住民運動”がおこりました。
被害者の人たちも企業に対して責任追及の裁判を起こし、四大公害病ではすべての事例で被害者側の全面勝利となりました。
このような世論の流れの中で、国や地方公共団体では公害対策に本格的に取り組むようになりました。
<公害に関する法律制定などの年表>
1967年:公害対策基本法の制定
1971年:環境庁の設置
1993年:環境基本法の制定
1997年:環境影響評価法の制定
1997年:地球温暖化防止京都会議開催
2000年:循環型社会形成推進基本法制定
2001年:環境省(旧環境庁)設置
2003年:環境教育推進法制定
⦿環境基本法
かつて公害対策は公害対策基本法で行われていましたが、複雑化する環境問題に対応できないことから公害対策基本法は廃止され、1993年に環境基本法が制定されました。
環境問題について
②新しい公害と環境問題
■ 近年の環境問題
公害防止の法整備などによって企業の生産活動による公害は減ってきましたが、その半面では、日常生活における公害や環境の変化による地球規模の環境問題も大きな社会問題となっています。
⦿ハイテク産業による環境汚染
IC産業などハイテク産業によって、ICの洗浄に使われる有機塩素系溶剤による地下水汚染が公害として問題になっています。
※ICとは集積回路のことで、私たちの身近にあるさまざまな家電に使われています。
⦿都市型・生活型公害
自動車の排気ガスや騒音・振動、家庭ごみなど、日常生活から発生する公害も大きな問題となっています。
近年では廃棄物処理施設から排出されて土壌などを汚染するダイオキシン問題なども新しい公害として社会問題になっています。
⦿地球規模の環境問題
石油など化石燃料の大量使用によって二酸化炭素増加による「地球温暖化」や、森林伐採による「森林破壊」、過度の農業化や周辺の森林伐採による「砂漠化」など、地球規模の環境問題も世界中で大きな問題となっています。
■ 循環型社会を目指して
⦿3R運動(さんアールうんどう)
ごみの増加は資源の浪費だけではなく環境破壊の原因にもなります。ムダなごみを減らし、使えるモノは使い、資源を再利用するという「3R運動」が必要です。
・リデュース(ごみ減らし)
・リユース(使えるモノは使う)
・リサイクル(再利用する)
地球上で起こる公害や環境問題に対して、企業も省資源・省エネルギー型の製品開発や、スーパーなどのレジ袋有料化によるごみ減らし(リデュース)、まだ使えるものは捨てずに使う(リユース)、ごみを再利用する(リサイクル)といった様々な対策を施して循環型社会を目指しています。
⦿循環型社会形成推進基本法
循環型社会の形成を推進する法律で2000年に制定されました。
発生抑制のリデュース、再使用のリユース、再生利用のリサイクルのほか、焼却の際の熱回収や廃棄物の適正処分という5つの処理が明記されました。
⦿各種リサイクル法
リサイクルの対象ごとに、7種類のリサイクル法が定められています。
・家電リサイクル法
・小型家電リサイクル法
・建設リサイクル法
・食品リサイクル法
・自動車リサイクル法
・パソコンリサイクル法
・家電リサイクル法
・小型家電リサイクル法
・建設リサイクル法
・自動車リサイクル法
・パソコンリサイクル法
⦿私たちにできること
国や自治体に頼るだけではなく、私たち個人にも環境問題に対してできることがたくさんあります。
「水を大切に使う」
「ゴミは地域のルールに従って分別する」
「使えるモノは出来るだけ長く使う」
「エアコンは適性温度に調整する」
「詰め替え商品を買う」
「エコバックで不要なレジ袋を断る」
・・・などなど、私たち個人でも環境に優しい生活習慣を意識して、地球規模で起こっている環境問題に向き合う努力をしていかなければなりません。
中学3年生の公民
グローバル化と貿易
グローバル化とは、人や商品、お金や情報などが国境を越えて世界の一体化が進んでいることをいいます。
たとえばスマートフォンでは、アメリカ製のアイフォンや韓国製のギャラクシーS、中国製のファーウェイなど、日本国内で外国のメーカーがたくさん使われています。
外国では日本製の自動車がたくさん走っていますし、日本でも外国製の自動車(高級車が多い!)もたくさん見ますよね。
モノだけではなく文化や人も国や地域を超えて自由に行き来するようになっています。街を歩けばハンバーガーショップや中華料理レストラン、イタリアンやフレンチのお店がたくさんありますし、コンビニなどで働いている外国人もよく見かけますよね。
グローバル化と貿易
①貿易について
外国からモノを買うことを“輸入”といい、外国へモノを売ることを“輸出”といいます。
このような外国とのモノの売買(輸出入)のことを“貿易”といいます。
■ 国際分業
世界の国々では、商品の生産や開発に“得意不得意”があります。
例えば、日本は資源に乏しいので原材料などは外国からの輸入に頼っていますし、一方で工業技術が発達していることから、優れた工業製品を外国に輸出しています。
このように、各国がそれぞれの得意分野に適した製品を輸出し、不得意分野の製品を輸入することによって、お互いの国が助け合い利益をうけられることを”国際分業”といいます。
国際分業による外国との貿易によって、私たちは便利で豊かな生活が送れるのです。
■ 自由貿易と保護貿易
⦿自由貿易とは…?
国家が貿易に干渉せず、外国と自由に輸出入ができることを”自由貿易”といいます。
市場の働きに任せた自由な売買(貿易)が行われて、お互いの国が得意な製品を輸出できる(国際分業)ので、自国の製品よりも安くて良い輸入品を買うことが出来ます。
⦿保護貿易とは…?
国家が貿易に干渉して、自国の産業を保護することを”保護貿易”といいます。
具体的には、国が輸入品に対して高い税率の関税をかけたり、輸入禁止や輸入数の制限をかけたりします。
関税とは?
輸入品にかけられる税金を関税といいます。
たとえばお米には高い関税がかけられています。安い外国のお米がそのまま日本に輸入されてしまうと国産のお米が売れなくなり、農家がつぶれてしまうことがあるからです
自国の農家を守るために外国のお米に高い関税をかけて、市場価格が国産のお米よりも高くなるようにしているのです。
⦿メリットとデメリット
自由貿易は外国産の安い商品が買えることがメリットです。モノを買う消費者にとっては大きなメリットですね。
さらに競争力のある生産者や企業は、外国にたくさんの商品を売る(輸出)ことができるので、大きな利益を生むことが出来ます。
一方で、安い商品が外国から入ってくることにより自社の生産物や製品が売れなくなるので、競争力の低い企業は大きな打撃を受けてしまうことがデメリットです。
保護貿易は自国の産業を守れることがメリットです。国家が輸入品に対して高い関税や輸入制限をかけることによって外国製の安い商品が手に入らなくなるので、自国の商品が安定的に売れるようになります。
一方で、輸入制限により安い外国製の商品を買うことができなくなるので、消費者にとってはデメリットとなります。
さらに、外国から見ると日本に商品を売ることが困難になるので、その不満から日本からの輸出も困難になってしまいます。
このように自由貿易と保護貿易ではそれぞれメリットとデメリットがあり、自国や外国、企業や消費者などのさまざまな立場がある中で、お互いの妥協点を見つけ出してバランスを保つことが大切だと言われています。
グローバル社会においては、自由貿易が推進されていますが、日本のコメ農家のような特定の産業においては最低限の保護をなされるべきだという考え方もあります。
国内の産業を守りながら、外国との協調も大切にすべきであるという両軸をバランスよく保つというのはとても難しいことですね。
グローバル化と貿易
②為替相場
世界にはさまざまな通貨があります。
アメリカの「ドル」や韓国の「ウォン」、イタリアの「ユーロ」など、通貨の種類は国によって異なります。
日本の通貨はみんな知っている「円」ですね。
外国との貿易を行うときや海外旅行に行くときには、日本の「円」を相手国の通貨に交換する必要があります。
このような他国どうしの通貨の交換を”外国為替”といい、通貨と通貨を交換する比率を”為替相場”(為替レート)といいます。
■ 円高と円安
外国の通貨に対して円の価値が高くなることを”円高”といい、逆に外国の通貨に対して円の価値が低くなることを”円安”といいます。
円の価値が高いとか低いとか…
ややこしいですね。
ここではアメリカの通貨である「ドル」と比べて解説していきます。
⦿円高とは…?
例えば昨日の時点では1ドル=110円だったとします。
今日になって為替相場が変わり1ドル=105円になりました。
※為替相場は日時によって刻々と変わります。
1ドルに対しての円の価値が110円から105円に変わりましたが、この場合は円高でしょうか?円安でしょうか?
円の数字が110円→105円と安くなったので円安だと思う方も多いと思いますが、この場合は円高が正解です。
では違う視点で見てみましょう。
1万円をドルに両替すると、約90.9ドルになりました。
(10,000÷110=約90.9)
1万円をドルに両替すると、約95.2ドルになりました。
(10,000÷105=約95.2)
同じ1万円なのに、①よりも②のほうがたくさんのドルに両替できましたね。
つまり「1ドル=110円」よりも「1ドル=105円」の方が円の価値が高いということなので、円高というわけです。
この場合は、ドルに対して円の価値が高くなったので「円高ドル安」ともいいます。
⦿円安とは…?
逆のケースも考えてみましょう。
昨日の時点で1ドル=110円だったのが、今日になって1ドル=120円になりました。
1ドルに対しての円の価値が110円から120円に変わりましたが、この場合は円安が正解です。
1万円をドルに両替すると、約90.9ドルになりました。
(10,000÷110=約90.9)
1万円をドルに両替すると、約83.3ドルになりました。
(10,000÷120=約83.3)
同じ1万円なのに、①よりも②のほうが両替できるドルが少なくなりました。
つまり「1ドル=110円」よりも「1ドル=120円」の方が円の価値が低いということなので、円安というわけです。
この場合は、ドルに対して円の価値が低くなったので、円安ドル高ともいいます。
■ 円高と円安の影響
為替相場(為替レート)の変化によって円高や円安になりますが、私たちの生活や経済にあたえる影響について考えてみます。
⦿海外旅行に行くとき
たとえばハワイ旅行に行ったとします。ハワイはアメリカなので「ドル」ですね。
為替相場が1ドル100円の円高の時と、1ドル120円の円安の時ではどっちが得するか見てみましょう。
日本から持ってきた5万円をハワイの通貨である「ドル」に両替します。
→ 5万円を500ドルに両替
②「1ドル=120円」…円安
→ 5万円を416ドルに両替
同じ5万円なのに、円高のほうが円安のときに比べて多くのドルに両替することができましたね。
ということは、日本から海外旅行に行くときは、円高のほうがオトクということがわかりますね。
⦿外国からモノを”輸入”するとき
アメリカから日本に3万ドルの車を輸入するケースを見てみます。
為替相場が1ドル100円の円高の時と、1ドル120円の円安の時では、どちらが得をするでしょうか?
→ 3万ドルは300万円です。
②「1ドル=120円」…円安
→ 3万ドルは360万円です。
同じ3万ドルですが、円高のときに支払う円は300万円で、円安のときに支払う円は360万円となりますね。
支払うお金(円)が安い方が得になるので、外国からモノを輸入するときは、円高のほうがオトクということです。
⦿外国にモノを”輸出”するとき
日本がアメリカに300万円の車を輸出するケースを見てみます。
為替相場が1ドル100円の円高の時と、1ドル120円の円安の時では、どちらが得をするでしょうか?
→ 300万円は30,000ドルです。
②「1ドル=120円」…円安
→ 300万円は25,000ドルです。
同じ300万円ですが、円高のときのアメリカでの販売価格は30,000ドルで、円安のときは25,000ドルになりますね。
円高のほうがアメリカでの販売価格が高くなってしまうので、商品が売れにくくなります。
つまり日本が外国にモノを輸出するときは、円高だと売れにくくなるので円安のほうがオトクということです。
<円高>
・海外旅行はオトク
・輸入に有利
・輸出に不利
<円安>
・海外旅行は損する
・輸入に不利
・輸出に有利
・海外旅行はオトク
・輸入に有利
・輸出に不利
・海外旅行は損する
・輸入に不利
・輸出に有利
円高、円安については、海外旅行に行くとき、輸出するとき、輸入するときの3パターンで、どのような影響を与えるかについては、しっかり理解しておきましょう。
グローバル化と貿易
③産業の空洞化
近年では企業の海外進出や多国籍企業の海外展開が世界的に加速しています。
家電量販店に並んでいる日本のメーカー品でも、内部の部品が海外製だったり、大手の衣料品メーカーでも、その生産国は中国や東南アジアがほとんどです。
たしかに日本国内で生産を行うよりも、人件費の安い海外で生産したほうがコストが安く済みます。かかるコストを減らせるという事は、利潤を追求する企業にとってはありがたいことですよね。
しかしその半面では、今まで国内の工場で働いていた人の雇用が失われ、国や地方公共団体の税収も減り、生産技術も海外に流出してしまうといった「日本経済の悪化」という大きな問題が生じています。
このように工場の海外移転などによって、国内の産業がおとろえてしまうことを、”産業の空洞化”と呼ばれています。
■ 貿易黒字と貿易赤字
日本は戦後から、原材料を輸入して国内の工場で生産し、工業製品を輸出する加工貿易によって輸出額が輸入額を上回る”貿易黒字”が続いていました。
日本は国内の産業をさらに発展させ、多くの雇用も生み、世界の国々の中で経済大国第2位の地位になりました。
※2019年現在は中国に抜かれて第3位
ところが近年ではグローバル化が進み、安い労働力を求めての工場の海外移転や、部品調達先の海外企業への切り替え、円高の影響などによって、輸入額が輸出額を上回る”貿易赤字”となっています。
貿易赤字・・・輸出額 < 輸入額
グローバル化と貿易
④国内総生産(GDP)
ニュースとかでよく聞く「GDP」。
教科書には「国内総生産(GDP)は、特定の国や地域の中で一定期間に生産された財やサービスの合計を表します」と書いていますが、なんだかよくわかりませんよね…。
■ 「GDP」とはズバリ!
一定期間(おもに1年間)に、その国の人が、国内で儲けた合計金額です!
日本のGDPは、1年間に日本人が日本国内で儲けた合計金額ということになります。
「その国が1年間にどれくらい儲けたか」という指数となるのがGDPなのです。
GDPはその国の経済力を示す数値としてよく使われますので、GDPが高いということは、その国の経済力が高いということですね。
■ 日本のGDPは世界第3位
かつては日本のGDPは世界第2位だったのですが、2010年に中国に抜かれて第3位となりました。
1位:アメリカ:20,494.05
2位:中国:13,407.40
3位:日本:4,971.93
4位:ドイツ:4,000.39
5位:イギリス:2,828.64
※単位:10億USドル
数字を見るとアメリカがダントツ1位。2位の中国にも大きく差を付けられていますね。
中国の経済成長はすさまじく、いずれはアメリカを抜いて1位になるのではと言われています。
■ 国民総生産(GNP)
以前は国内の経済指数として、国民総生産(GNP)が使われていました。
GNPは日本人が外国で作った付加価値も含まれています。
グローバルな経済活動が進んでいる現在においては、日本の企業が海外で行っている経済活動も含まれているGNPだと、日本国内の経済状況を表すのに不正確となってしまうので、GNPは現在では使われていません。
中学3年生の公民
国際社会のしくみ
2019年現在、世界には200近くの国家が存在しています。私たち日本人が日本という国家の国民として暮らしているように、世界中の人々はいずれかの国家に属し、その国民として生活しています。
さまざまな国家が存在する世界で、それぞれの国家が互いに尊重し、協力し合う国際社会を形成していくためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
国際社会のしくみ
①国家の三要素
国家は、国民・領域・主権の三要素によって成り立っています。
国家として成立するには、その国で暮らす国民がいて、その国が持つ領域があり、その国の独立した主権を持っていることが要件として必要ということです。
■ 主権国家
国家の主権とは、国内的には国の統治権や国家権力そのものをいいます。
日本の場合は立法権の国会、行政権の内閣、司法権の裁判所をまとめて統治権と呼ばれています。
国際社会において、主権をもつ国々を”主権国家”といいます。
⦿内政不干渉の原則
国家の主権は自国の統治権と同時に、国の統治権は他国に干渉されない権利をもっています。
これを内政不干渉の原則といいます。
⦿主権平等の原則
すべての主権国家は平等に取り扱われるという原則を主権平等の原則といいます。
たとえば、国際連合の総会では、国の面積や人口、経済力などは一切関係なく、1国が1票の投票権をもっています。
⦿国旗と国歌
主権国家は、その国家の象徴として”国旗”と”国歌”をもっています。
日本の国旗は、日の丸でおなじみの「日章旗」です。国歌はみんなが知っている「君が代」ですね。
国家が互いに尊重し合うためにも、国旗と国歌は大切にしていかなければなりません。
■ 領域(領土・領海・領空)
その国の主権がおよぶ範囲を”領域”といいます。
領域は、陸地である”領土”、領土から一定の範囲の海である”領海”、領土と領海の上空である”領空”からなっています。
⦿領土(陸地)
日本の領土は、北海道、本州、四国、九州、その周辺の島々から成り立っています。
⦿領海(海)
領土の海岸線から12海里(約22km)の範囲内の海を領海といいます。
⦿領空(上空)
領土と領海の上空(空域)を領空といいます。領空は大気圏内までです。
大気圏より上の宇宙空間は領空ではありません。
■ 排他的経済水域(EEZ)
領海の最外部から海岸線から200海里(約370km)までの水域には”排他的経済水域”と”大陸棚”があります。
排他的経済水域と大陸棚には領海は含まれません。
排他的経済水域は英語の略称で”EEZ”という場合もあります。
排他的経済水域内にある漁業資源や鉱産資源などの開発や保全は、その沿岸国に権利がありますが、領海とちがって他の国と重なることもあります。
排他的経済水域や大陸棚の資源をめぐって国家間で争いが起こっているところもあります。
⦿公海自由の原則
排他的経済水域の外側の水域を”公海”と呼ばれています。
公海ではどの国の船や漁船も自由に航行や操業ができ、これを”公海自由の原則”といいます。
⦿南極大陸と宇宙空間
南極大陸と宇宙空間はどの国も領域として支配することはできません。
国際社会のしくみ
②国際法
国家はそれぞれが自国の利益を追求していくものです。歴史を振り返ってみても自国の利益のために他国との争いが繰り返されてきました。
現在の国際社会においては、自国の利益を守るためには他国との協力が欠かせませんし、国家がお互いに主権を尊重し合っていくためには守らなければならないルールがあります。
ここでは国家間のルールである“国際法”について学習していきます。
■ 条約と国際慣習法
国際法には”条約”と”国際慣習法”があります。
「条約」は文章による国家や国際機関との間で結ばれる法的な合意で、「国際慣習法」は国際社会で繰り返された慣行が多くの国家によって認められて、暗黙のうちに国際的なルールとなったものです。
⦿条約
国や国際機関との間で、文章(書面)によって結ばれる法的な合意を条約といいます。
かんたんに言えば文章による決まりごとですね。
条約には、〇〇憲章、〇〇規約、〇〇協約、〇〇協定、〇〇宣言、〇〇議定書などの名称が用いられています。
日本の場合は、事前または事後に国会の承認を得て、内閣が条約の締結を行います。
⦿国際慣習法
国際社会で長い期間行われていた慣行(習慣)がルールとなったものを国際慣習法といいます。
かんたんに言えば暗黙の了解によるルールですね。
条約とは異なり、文章(書面)による法的な合意ではありません。
たとえば先ほどの「領海」で出てきた「公海自由の原則」も国際慣習法の1つです。
⦿国際司法裁判所
国際司法裁判所はオランダのハーグに本部がある国際連合の機関で、国家間の紛争について裁判を行う常設の司法裁判所です。
国と国とで意見が異なった場合は、国際司法裁判所に訴えることが出来ます。ただし、裁判を始めるには争っている両国の合意が必要です。
例えば、韓国との竹島問題を国際司法裁判所に委ねて平和的に解決するという提案を日本は三度に渡って行ってきましたが、韓国はそれを拒否し続けています。
国際連合といえども主権国家以上の力はないため、国際法には限界があります。
国際法だけでは解決できない問題もたくさんあるので、各国の軍事力を背景とした外交交渉が必要であるのが現状なのです。
国際社会のしくみ
③国際連合
国際連合(国連)とは、1945年に国際連合憲章の下に国家間の平和と安全のために設置された国際機関です。本部はアメリカのニューヨークにあります。
第一次世界大戦の反省から1920年に国際連盟が発足されましたが、軍事制裁を行えないことや、全会一致の法則によって大切な決め事がなかなか決められないなどの問題点が多く、結局のところ第二次世界大戦を防げませんでした。
このようにうまく機能しなかった国際連盟の反省から、軍事力による抑止力を持ち、全会一致を多数決に変え、世界の平和と安全を維持することを目的とした国際連合が発足されたのです。
2019年3月現在、国連の加盟国は193か国となっています。
■ 国際連合のしくみ
国際連合は、総会、安全保障理事会、経済社会理事会、国際司法裁判所、事務局といった主な機関と、国連教育科学文化機関(ユネスコ・UNESCO)や世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)などの数多くの専門機関からなっています。
⦿総会(国連総会)
総会(国連総会)は、すべての国連加盟国の代表者が集まる会議で、毎年1回、9月に開かれます。
ここでは世界のさまざまな問題について話し合われ、何かを議決するときの投票は、1国1票(主権平等の原則)と決められています。
また、議決は出席国の過半数による多数決が原則(重大な問題については3分の2以上)で、国際連盟の全会一致とは大きく異なります。
毎年9月に行われる総会を”通常総会”といい、他にも、重大な問題が起きた時に開かれる”特別総会”や、さらに緊急性が高い時に開かれる”緊急特別総会”があります。
⦿安全保障理事会(安保理)
安全保障理事会(安保理)は、国際連合の主要機関の1つで、平和と安全の維持については総会よりも優越し、強制力が強いことが特徴です。
たとえば、武力行使を含む強制措置の発動を決定できるのは安保理だけで、その決議はすべての国連加盟国は従わなければなりません。
安全保障理事会には5か国の”常任理事国”と10か国の”非常任理事国”の計15か国で構成されています。
<常任理事国>5か国
アメリカ、ロシア連邦、イギリス、
フランス、中国
常任理事国の5か国を5大国とも言います。
※重要!丸暗記必須!
任期2年の10か国。
総会で選ばれ、日本もたびたび非常任理事国に選ばれています。
⦿常任理事国の拒否権
安全保障理事会では、通常の問題については15か国のうち9か国の賛成で議決されますが、重要な問題については、常任理事国の5か国すべての賛成が条件となっており、5大国の1国でも反対すれば決定できません。
このことを”常任理事国の拒否権”といいます。
■ 国際連合の役割
国連には大きく分けて2つの役割があります。
1つ目は、世界平和と安全の維持です。
2つ目は、経済、社会、文化、環境、人権などの分野で国際協力を推進することです。
⦿集団安全保障
国際連合では侵略行為など平和を脅かす行動をとった国に対して、安全保障理事会の決定によって、加盟国全体で経済的措置や軍事的措置などの制裁を加えることが出来る”集団安全保障”という考え方をもっています。
⦿国連平和維持活動(PKO)
国連では紛争地域などで、停戦の維持や公正な選挙の監視などのために、国連加盟国の武装した軍隊や非武装の停戦監視団などを当事国に派遣することがあります。
このような停戦監視などの活動を国連平和維持活動(PKO)といいます。
またPKOとして派遣される武装した軍隊を国連平和維持軍といいます。
日本もPKO活動にたびたび参加しています。
憲法上では「軍隊ではない自衛隊」を「軍隊として自衛隊を派遣する」ということは憲法違反であるという意見もあるようです。
しかし日本が国際社会において確固たる地位を得るためには、PKO活動への参加は必要不可欠だったのかもしれません。
⦿国際的な問題を解決
国連では、紛争などの争いごとに対する活動だけではなく、世界中で起こっているさまざまな問題解決に向けての取り組みを行っています。
たとえば、難民問題や環境問題、病気の予防対策や経済格差問題など、専門機関や国際機関と連携して、世界の人々の生活向上のための活動に取り組んでいます。
国際社会のしくみ
④地域の国際組織
世界には国際連合以外にも、地域におけるさまざまな国際組織が存在しています。
ヨーロッパでのヨーロッパ連合(EU)、東南アジアでの東南アジア諸国連合(ASEAN・アセアン)、アジア太平洋地域でのアジア太平洋経済協力会議(APEC・エイペック)の開催などは、テレビや新聞のニュースでもよく聞くと思います。
同じ地域で同じ課題をかかえている国どうしが、特定の地域で協調や協力を強めようとする動きを、地域主義(リージョナリズム)といいます。
■ ヨーロッパ連合(EU)
政治や経済、外交などで、ヨーロッパの国々で連携し協力し合う連合として、1993年に発足されたのがヨーロッパ連合(EU)です。
EUの本部は、ベルギーの首都ブリュッセルにあります。
経済面ではEUの中央銀行が作られ、一部の加盟国では自国の通貨を廃止して共通通貨である「ユーロ」を導入しました。
ユーロを持っていれば、イタリアでもフランスでもスペインでも、同じお金で買い物が出来ます。
ユーロ導入で自国通貨を廃止した通貨の例
イタリア:「リラ」→ ユーロフランス:「フラン」→ ユーロ
スペイン:「ペセタ」→ ユーロ
ギリシャ:「ドラクマ」→ ユーロ
オランダ:「ギルダー」→ ユーロ
ドイツ:「マルク」→ ユーロ
ユーロ導入で自国通貨を廃止した通貨の例
フランス:「フラン」→ ユーロ
スペイン:「ペセタ」→ ユーロ
オランダ:「ギルダー」→ ユーロ
ドイツ:「マルク」→ ユーロ
EUの中ではユーロを導入していない国もあります。
例えばイギリスでは自国通貨であるポンドを使い続けユーロを導入しませんでした。また、イギリスは国民投票によってEU離脱が決定されました。
⦿EUの問題点
EUは発足以降、東ヨーロッパを中心に加盟国が増えてきましたが、同時に多くの問題点も発生しています。
移民や難民の急増、失業率の増加、経済格差の拡大、複雑で不公平な税制など、いろいろと挙げられます。
特に大きな問題として挙げられるのが金融危機であるユーロ危機です。
日本でも大きく報道されていたギリシャ財政危機が有名で、ユーロの為替相場が下落し、その後も経済的な不安定が続いています。
またイギリスのEU離脱問題も大きく報道されました。
EUの中では人の移動が自由なので、比較的景気が良くて仕事がたくさんあるイギリスに多くの移民が入ってきました。
その結果、元々イギリスに住んでいた人々の仕事が減ってしまったり、病院が混んだり、学校を増やすために多くの税金が使われたりと、さまざまな不満が出てきました。
このような移民問題が大きなきっかけとなり、イギリスでは国民投票によってEU離脱が決まったのです。
■ 東南アジア諸国連合(ASEAN)
東南アジアの安定と発展を求める組織として、1967年に東南アジア諸国連合(ASEAN)が設立されました。
本部はインドネシアの首都ジャカルタです。
加盟国は東南アジアの10か国。政治、経済、安全保障などの分野でお互いに協力を進めています。
ASEAN諸国に日本や韓国、中国などを加えた合同会議が東アイジアサミットとして活発に行われています。
■ アジア太平洋経済協力会議(APEC)
アジア太平洋地域では、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催されています。
近年ではこの地域の多くの国が参加して、貿易の自由化などを盛り込んだ環太平洋経済連携協定(TPP)が調印され、賛否がある中、日本もTPPに参加をしています。
⦿TPP
TPPとは環太平洋パートナーシップ協定の略称で、TPP加盟国の間で輸入関税を撤廃して自由な貿易を行えるようにする協定です。
関税をなくし、自由な貿易ができるようになれば、日本の商品を外国にたくさん売ることができますし、外国からの安い商品を買うことができることも大きなメリットです。
一方では、外国から安い商品が大量に入ってくると、日本の国産商品が売れなくなり、国内の産業が衰退してしまうというデメリットもあります。
特に日本の農家に与える影響は大きく、コメや小麦などが安く大量に入ってくると、日本の農家は存続できなくなるかもしれません。
TPPについては、メリットとデメリットが両極端に分かれており、現在でも賛否が分かれています。
⦿アメリカのTPP離脱
2017年1月にアメリカが自国の産業や労働者を守るということでTPPを離脱しました。
アメリカのTPP離脱によって、TPP発効のめどが立たなくなり、今後の動向も不明のままとなっています。
中学3年生の公民
世界の経済格差
世界には経済的に豊かな国と貧しい国があり、国と国との経済格差は大きな問題となっています。
私たちの国、日本では、世界の中で見ると「豊かな国」で先進工業国(先進国)と呼ばれていますが、一方では、貧困に苦しんでいる発展途上国(途上国)と呼ばれている国もたくさんあります。
ここで言う「貧困」とは、私たちの想像の基準が全く異なるレベルで、単純に「お金がない」「カワイイ洋服が買えない」などとは大きくかけ離れた、命にかかわるレベルの「貧困」です。
ここでは「豊かな国」と「貧しい国」の経済格差について学習していきます。
世界の経済格差
①南北問題
世界には、先進工業国(先進国)と呼ばれている「豊かな国」と、発展途上国(途上国)と呼ばれている「貧しい国」に大きな経済格差があります。
先進国は、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、日本など主に地球の北側に位置し、途上国は西アジア、南アジア、アフリカ、ラテンアメリカなど主に地球の南側に位置していることから、先進国と途上国の経済格差を「南北問題」と呼ばれています。
■ 南北問題の原因
先進国と途上国との経済格差には、途上国の人口爆発や食糧問題、貿易の不平等などさまざまな原因が挙げられます。
⦿途上国の人口爆発
人口が異常に増えることを「人口爆発」といいます。
南側の発展途上国では、労働のための人出が多く必要であることや、宗教や独自の伝統などによって出生率が高いことなどが挙げられます。
発展途上国での人口爆発問題は、地球上の食糧不足にも繋がり、先進国を含めた世界中にも大きな影響を及ぼすと言われています。
⦿食糧問題
発展途上国では「食糧不足の問題」が起きています。
途上国では人口増加に加えて、気候の問題や他国への農産物の輸出などで自分たちの食糧が不足しているのです。
これは世界中で食糧が不足しているのではありません。
例えば日本では、毎年大量の食糧を輸入していながら大量の食糧を廃棄しています。
先進国では食糧が大量に余り、途上国では大量に不足しているのです。
⦿モノカルチャー経済
貿易の自由化が進み、現代の国家では他国の存在なしでは成り立たない”相互依存”の関係になっています。
たとえば日本では、農産物や資源を外国から輸入して、工業製品などを輸出しています。
発展途上国から輸出されるものは、農産物や原料など価格が安い一次産品が多く、先進国から輸出されるものは価格が高い工業製品が多いです。
輸出品目を農作物などの一次産品に大きく依存している経済を「モノカルチャー経済」といいます。
農作物は天候不良など自然界の影響を受けやすいので、経済が不安定な傾向があります。
モノカルチャー経済から抜け出せず、安くて不安定な収入に頼らざるを得ない発展途上国と、先進技術によって安定的で高収入が得られる工業先進国との間に、大きな経済格差が生まれてしまうのです。
世界の経済格差
②南南問題
「南南問題」とは、南北問題の「南」と呼ばれる発展途上国の中での経済格差問題です。
地球の南側にある途上国の中でも、工業技術が発達した国や、石油資源の豊富な産油国のような「豊かな国」と、モノカルチャー経済から抜け出せない「貧困な国」との新たな経済格差が南南問題なのです。
■ 新興国の経済成長
発展途上国の中では急激に経済成長を遂げた「新興国」が現れています。
1960年代以降に急激に工業化が進んだ、新興工業経済地域(NIES・ニーズ)と呼ばれる、韓国、台湾、シンガポール、香港では、現在では大きな経済力を持っています。
2000年代には、広い国土とたくさんの人口、多くの資源を持ち、急激に経済成長しているブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の5か国が注目され、この5か国の頭文字を取ってBRICS(ブリックス)と呼ばれています。
■ 資源保有国との格差
発展途上国の中でも、原油などの資源が豊富に取れる国と、そうでない国との間で大きな経済格差が生じています。
資源に恵まれているサウジアラビアやアラブ首長国連邦、イランやイラクなどの中東の国々では、原油などの資源を世界各国に輸出して大きな利益を生んでいます。
世界の経済格差
③世界の貧困
ひと言で「貧困」と言ってもその定義はさまざまですが、代表的な考え方として「絶対的貧困」と「相対的貧困」があります。
「絶対的貧困」は主に発展途上国、
「相対的貧困」は主に先進国で起こっています。
■ 絶対的貧困
たとえば「食べ物がない」「住む家がない」といった最低限の生活ができない貧困のことを「絶対的貧困」といいます。
⦿1日200円以下の生活
世界銀行では「1日1.9ドル以下で生活している人」を絶対的貧困であると定めています。
1.9ドルというのは、日本円で約200円。1日200円以下での生活って想像が出来ますか?
食費、家の家賃、洋服代、交通費、給食代、文房具代…、ぜんぶ含めて1日200円以内の生活…。想像してみて下さい。
たとえばアンパンと牛乳だけで200円くらいかかってしまいます。
住む家もなく洋服も買えず、1日に1個のアンパンと1本の牛乳だけで生きていくことは不可能ですよね。
このように絶対的貧困というのは、人間として最低限の生存を維持することが困難な状態ということです。
⦿5歳を迎えられない子供たち
世界では10人に1人が絶対的貧困だと言われています。
世界では毎日たくさんの人(特にこども達)が飢餓によって亡くなっており、途上国では1,000人のうち50人が、5歳の誕生日を迎える前に命を落としています。
学校にも通えず、読み書きや計算もできず、大人になっても不安定で収入の少ない仕事にしか就けず、貧困の悪循環から抜け出せない人がたくさんいます。
このように世界では、貧困によって苦しみ、人間としての最低限度の生活が送れず、飢餓によって亡くなってしまう人々がたくさんいるということを覚えておいてください。
⦿女性の貧困による影響
女性も貧困の影響を大きく受けています。
経済的な理由だけではなく、文化や宗教上の理由から女性を学校に通わせない親も多く、途上国では女性の「識字率」が男性よりも低い傾向にあります。
こうしたことから、途上国では女性の社会自立がしづらい傾向にあります。
国際連合が教育指数として算出するための要素の一つ。日常生活の簡単な文字の読み書きや理解できるかどうかの能力を「識字」といいます。
⦿貧困の解決に向けて
貧困問題解決のためには、援助だけではなく、その国の人々の自立をうながすことが必要です。
例えば、途上国の人々が生産した農作物などを、その労働に見合う公正な価格で取引し、先進国が購入することによって途上国の人々の生活を支えるフェアトレード(公正貿易)や、貧しい人々が新しい事業を立ち上げるために少額のお金を貸し出すマイクロクレジット(少額融資)は女性に現金収入を得る機会を与えるなど、成果を上げるようになっています。
■ 相対的貧困
世帯の所得(収入)がその国すべての所得平均の半分に満たない状態を「相対的貧困」といいます。
たとえば日本の場合、平均所得が年間400万円だとしたら、その半分である年間200万円未満の世帯が相対的貧困であると言えます。
たしかに1年間の収入が200万円未満というのは、その世帯の人数にもよりますが、家賃や水道光熱費、食費や衣料費、交通費や交際費などを考えたら、厳しい生活になるかもしれません。
家庭の貧困が原因で高校に進学できずに、働く道を選ぶ人もたくさんいます。
しかし、絶対的貧困のように最低限の生存を維持できないほどの貧困ではなく、その国の文化水準や生活水準と比べて困窮した状態が相対的貧困というわけです。
日本では何らの事情によって働けなくなり、収入が少なく生活に困ってしまっても、生活保護などの救済制度が充実しているので、飢餓によって明日の命も危ういような絶対的貧困はほとんどありません。
これは日本という国が「豊かで恵まれている国」だからなのですよ。
中学3年生の公民
地球規模の環境問題
私たちの暮らしの中ではあまり実感がないかもしれませんが、地球上ではさまざまな危機的問題が生じています。
地球環境問題、エネルギーや資源の枯渇問題、経済格差による貧困問題、テロリズムや紛争問題…。
テレビのニュースではよく目にするかもしれませんが、なんとなく他人事で自分には関係ないと感じてしまうことも多いのではないでしょうか。
ここでは地球規模で起こっている環境問題について学習していきます。
地球規模の環境問題
①地球温暖化
私たちの生活では、暑い夏にはクーラーをかけて涼しく過ごし、寒い冬には石油ストーブなどの暖房器具で温かくするなど、日々快適な暮らしをしています。
冷蔵庫でキンキンに冷やした飲み物を飲めますし、電子レンジで温めたアツアツのおいしい食品を食べることができます。
このように、便利で快適な生活を実現できた一方で「地球温暖化」という地球規模の大変な問題が起こっているのです。
地球温暖化は地球環境問題の中で最も深刻で、さまざまな環境破壊の原因となる象徴的な問題です。
■ 地球温暖化の原因
地球温暖化とは、私たちの生活上などで排出された二酸化炭素(CO2)などの「温室効果ガス」の増加によって、気温の上昇や地球全体の気候が変化することです。
産業革命による工場の増加や、私たちの生活における二酸化炭素の排出が地球温暖化の原因となっているのです。
⦿自動車の排気ガス
私たちの暮らしにとっても便利な車。しかし車から排出される排気ガスは大気汚染の原因にもなりますし、排気ガスに含まれている二酸化炭素による温室効果ガスの増加が地球温暖化の原因のひとつになっています。
近年ではハイブリット車や電気自動車など、二酸化炭素の排出を抑え、地球にやさしいエコカーの開発と普及が進んでいます。
⦿火力発電所
現代の生活で欠かせない電気。その電気の発電にはさまざまな方法がありますが、日本では火力発電が最大の発電となっています。
火力発電は、天然ガス・石炭・石油などを燃やして発電する方法ですが、とくに石炭が資源の豊富さと安さで最も効率が良いとされてきました。
しかし石炭火力発電所は最大のCO2排出源となっており、地球温暖化の大きな原因となっています。
近年では温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーとして、太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーが注目されています。
⦿森林の伐採
理科でも習いましたが、植物には二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す性質がありましたよね。
そんな地球の環境に大きく役立っている植物が、森林の伐採によって減っています。
森林が減るということは、CO2を吸ってくれなくなるということなので、地球温暖化につながってしまうのです。
■ 地球温暖化による影響
地球温暖化は地球上の生物や環境にさまざまな悪影響を及ぼします。
最近では日本でも、今まで経験したことない規模の台風や豪雨も頻繁に起こっていますし、夏も今まではあり得ないほどの猛暑が続いています。
これら原因のすべてが地球温暖化による影響かどうかは定かではありませんが、少なくとも何かしらの影響はあるのではないかと言われています。
このまま地球温暖化が進むと、どのようなことになるのでしょうか?
⦿海水が増えて陸地が減る
南極や北極などの氷や氷河が温暖化によって溶けてしまい海水が増えていきます。
海水が増えると海の水位が上がるので、低い場所にある土地や島国などが海に沈んでしまう可能性があります。
⦿絶滅する動植物が増える
たとえば寒い地域に住むホッキョクグマは、住む場所やエサが少なくなってその数が減っています。このまま地球温暖化が進んでいくと絶滅の危機が指摘されています。
他にもさまざまな生態系に影響を及ぼし、絶滅してしまう種の動植物が増えていくと言われています。
⦿天候による災害が増える
地球温暖化で海水の温度が上がったり海の面積が増えることによって、雲の動きや風の吹き方などが変わってしまいます。
その結果、台風や大雨などの自然災害が増え、その規模も増していくと言われています。
⦿食糧不足になる
気候の変化によって、農作物が取れなくなったり、台風などの影響で田畑に被害が出たりして食糧不足になってしまう可能性があります。
地球温暖化は、私たち日本を含めた工業先進国が原因であると言われています。
先進国では、生活向上や経済発展のために、たくさんの工場をつくり、たくさんの自動車を走らせ、便利で快適な生活を手に入れてきました。
その結果、あらゆる地球環境に影響を及ぼし、とくに地球温暖化は世界中で大問題となっています。
今後は温室効果ガス(とくに二酸化炭素)の排出量削減の取り組みが必須となっており、世界の国々による国家としての取り組みはもちろん、私たち一人ひとりが常に意識をして地球環境を守る努力をしていかなければなりません。
地球規模の環境問題
②森林破壊と砂漠化
日本でもゴルフ場の建設などで「森林破壊」が問題になっていますが、発展途上国ではもっと大規模な森林破壊による熱帯雨林の消失が問題になっています。
森林破壊は地球温暖化の原因の1つにもなっていますし、動物の生息域の減少にもなるので、生態系の保護の観点からも問題視されています。
人間を含め、地球上のすべての動植物にとって大切な森林を、私たち人間の都合で破壊されている現実に向き合い、世界規模での早急な解決が求められています。
■ 森林破壊の原因
⦿先進国の大量消費
森林破壊の主な原因は、先進国による木材の大量消費だと言われています。
発展途上国で伐採された木材のほとんどは先進国に輸出され、大量に消費されています。
生活に身近な割りばし、牛乳パック、ティッシュやトイレットペーパー、雑誌や新聞、その他紙製品など、すべて木材が原料です。
私たちのぜいたくな生活のために、世界中で森林減少が進んでいるということ忘れずに、日々の生活の中でも資源の無駄遣いを減らしていく努力が必要なのです。
⦿森林を農地や牧草地に
発展途上国では人口増加にともない、食料や燃料を確保するために森林を伐採し農地や牧草地に変えてきました。
中でも「焼き畑農業」による農地拡大は、森林減少だけではなく、その後の砂漠化の原因にもなっています。
森林を刈り、倒した草木を燃やして肥料としながら作物を栽培する農業です。
数年間その農地を使うと肥料がなくなるので、さらに他の森林を焼き畑にしていきます。
一度焼き畑にした土地は10年~20年で植生が回復されますが、土地の栄養が完全に復元する前にその土地を耕作してしまうこともあるので、どんどん土地がやせ衰えて砂漠化となってしまいます。
■ 森林破壊の影響
⦿地球温暖化を加速させる
森林破壊の最も重大な影響は地球温暖化の加速です。
森林は大気汚染や温室効果ガスの原因となる二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出してくれるとってもありがたい存在です。
そんな地球環境にとって大切な森林を破壊し続けていくことは、自分で自分の首を絞めているということです。
⦿動物や植物の減少
森林が減ると、そこで生息している動物や植物が生きていけなくなってしまいます。
動物や植物には生態系というものがあり、例えば、草木がなくなればそれを食べる草食動物が生きられなくなります。
草食動物がいなくなれば、それを食べる肉食動物も生きられなくなります。
このように森林破壊による生態系の崩れによって、私たち人間も回りまわって食べるものが減ってしまう可能性もあるのです。
⦿災害の増加
森林は、土に根を張ったり、枝や葉を茂らせて山をおおったりしています。
その木々の根や葉のお陰で、雨が降っても土が流されず、山が崩れにくくなっています。
森林破壊によって土壌が弱くなり、土は簡単に雨に流されてしまうので、台風や大雨のときには、土砂崩れや洪水などの災害を引き起こすことがあります。
また、森の中を流れる川も流されてしまうので、その土地の水質浄化能力も低下させてしまいます。
⦿途上国の社会問題
発展途上国では、森林を生活の糧にしている人々がたくさんいます。
森林破壊によって仕事を失い、貧困の増加や、森林資源をめぐる地域の紛争、違法行為の増加など、多くの社会問題を引き起こす可能性が出てきます。
私たち日本人は、地球規模の森林破壊については身近に感じることが出来ない問題かもしれませんが、森林破壊の最も大きな原因は、私たち先進国による木材の大量消費だと言われています。
割りばしや牛乳パックも使い捨てで、世界中の大切な資源をムダに使っているのです。
現在では、ファミレスなどの飲食店では、割りばしを使わずに、ちゃんと洗えば再利用ができる箸の提供や、紙製品も再生紙などリサイクルが可能なものが増えています。
このような企業や個人の小さな行動の積み重ねが森林破壊問題の減少につながる大きな一歩となるのです。
地球規模の環境問題
③国際社会の取り組み
地球温暖化や森林破壊など地球環境問題の解決のためには、国際社会の協力が必要です。
たとえば、世界中で増え続けている二酸化炭素の排出量は、1国の取り組みだけでは解決できる問題ではありませんし、それに伴って生じる地球温暖化は、国や地域に関係なく地球全体に被害を引き起こしています。
地球規模の問題だからこそ、国や地域に関係なく、地球全体で取り組まなければなりません。国際社会が協力していくための土台となるものが、国際会議や国際条約です。
■ 国連環境開発会議
(地球サミット)
国連環境開発会議(地球サミット)は、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された国際会議です。
地球温暖化などの地球環境問題を人類共通の課題と位置づけて「持続可能な開発」という理念のもとに開催されました。
この年の地球サミットでは、世界のほぼすべての国が参加し、現在でも国際的な取り組みの礎となっている「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」の調印が行われました。
⦿気候変動枠組条約
気候変動枠組条約とは、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ、地球温暖化を防止することを目的に、1992年の国連環境開発会議で調印された条約です。
この条約に基づいて、1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP・コップ)が開催されています。
⦿生物多様性条約
地球上にさまざまな生物が存在し、互いに関係し合って生きている状況を「生物多様性」といいます。
生物多様性条約は、この生物多様性の保全と持続性利用を目的として、1992年の国連環境開発会議で調印された条約です。
■ 地球温暖化防止京都会議
1997年に京都で開催された地球温暖化防止京都会議は、正式には「第3回気候変動枠組条約締約国会議」といいます。3回目の締約国会議なので「COP3」とも呼ばれています。
1992年に採択された気候変動枠組条約では、2000年までに温室効果ガスの排出量を1990年の水準に戻すという目標でした。
しかし、1995年の第1回締約国会議では現行の条約内容を不十分とし、新たな国際的な約束として2000年以降の目標や具体的な取り組みを第3回締約国会議(COP3)で取りまとめることを決めました。
この京都会議は、その第3回締約国会議ですので、2000年以降の地球環境問題に対して非常に重要な決定を行う会議として世界中の注目を浴びました。
⦿京都議定書
京都議定書は、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)で採決された国際条約です。
行われた地名にちなんで「京都」の名前が付けられました。
京都議定書では参加している先進国に対して「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で5.2%削減すること」という要求をしています。
さらに国や地域ごとにも、EUは8%、アメリカは7%、日本は6%の削減義務を約束しました。
最終的には先進国全体で22.6%、日本は8.4%の温室効果ガス削減を達成しました。
ここで重要なのは「先進国に対して」という部分です。
締約国会議の基盤となっている気候変動枠組条約では、地球温暖化は先進国に大きな責任があるから、まずは先進国が率先して温室効果ガス削減に向けて努力すべきであるという合意があります。
そのため京都議定書では、先進国に対しては温室効果ガス削減を義務付け、途上国に対しては削減義務を求めていません。
京都議定書の締結は、世界全体での温室効果ガス削減の大きな1歩となりました。
⦿アメリカの京都議定書離脱
ところが2001年にアメリカが京都議定書の離脱を表明しました。
離脱の理由は、温室効果ガスの削減はアメリカ経済の成長を阻害することや、発展途上国の削減目標がなく不公平であることなどです。
アメリカは温室効果ガス発生の最も多い国なので、アメリカの離脱は大きな問題となりました。
しかし、アメリカの離脱によって他の国の結束力が高まり、発効要件である批准国55ヵ国に達したので、2005年に京都議定書は発効されました。
■ パリ協定
パリ協定は、2015年にフランス・パリで開催された第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採決された気候変動問題に関する国際的な合意です。
京都議定書の後継となる温室効果ガス削減の国際的取り決めがパリ協定です。
京都議定書では、温室効果ガスの排出量削減の法的義務は先進国のみに課せられていました。
しかし、京都議定書が合意された1997年から今日までのあいだに、発展途上国は急激に経済成長を遂げ、CO2排出量も急増してきました。
そのような背景の中で発展途上国に排出量削減の努力義務が課せられないことは、不公平であるという考え方が出てきました。
実際に当時世界最大の排出国であったアメリカも京都議定書から離脱し、その実効性に課題が残されていました。
パリ協定では先進国のみではなく発展途上国に対しても排出削減の努力を求めるというものです。途上国を含むすべての参加国に対して削減目標の義務を課している点が、京都議定書とは大きく異なります。
パリ協定では、世界の平均気温上昇幅を2℃未満、できれば1.5℃以内の目標を掲げています。
先進国・途上国の全ての参加国がそれぞれの目標を立てて取り組んでいますが、目標達成の義務はないので、各国が責任をもって取り組みことが必要です。
⦿アメリカのパリ協定離脱
2017年6月にアメリカのトランプ大統領がパリ協定離脱を表明しました。
トランプ大統領は「地球温暖化はでっち上げ」として、地球温暖化問題そのものを否定し、パリ協定離脱を大統領選挙の公約として掲げてきました。
トランプ大統領の離脱表明に対し、パリ協定を主導したオバマ前大統領は「地球の未来を拒否する一握りの国に加わった」と非難しました。
世界第2位のCO2排出国であるアメリカが、世界の排出削減の取り組みから離脱するのは、京都議定書に続いて2度目です。
※京都議定書の合意があった時のアメリカは世界1位のCO2排出国
アメリカのパリ協定離脱表明は世界中やアメリカ国内からも多くの批判があります。
パリ協定は発効後3年間は脱退を通告できず、通告後1年経たないと脱退が成立しないので、正式な離脱が可能となるので2020年11月以降となります。
中学3年生の公民
資源・エネルギー問題
朝起きたら顔を洗い歯を磨き、温かい朝食を食べ、バスや電車で学校に行き、家に帰ったらお風呂に入り、エアコンの効いた部屋で友だちとラインをしたり、スマホでゲームやユーチューブ、家族とのんびりテレビを見たり…。
休日には家族と車でドライブに出かけたり、欲しいモノをアマゾンで買って宅配で届けてもらったり…。
そんな便利で快適な暮らしを支えているのは電気やガス、ガソリンなどの「エネルギー」です。
私たちの現代の生活は、エネルギーなくして成立しなくなっているのです。
資源・エネルギー問題
①増加するエネルギー消費量
エネルギーの消費量は年々増え続けています。
増え続けるエネルギー資源の消費量に対して、省資源・省エネルギーのための技術開発や、新しいエネルギー資源の開発も注目されるようになってきています。
エネルギー消費量が増えて続けている原因は、世界の人口増加と、世界の経済発展だと言われています。
■ 世界の人口増加
少子高齢化にともない日本の人口は減り続けています。
しかし世界の人口は増え続けており、2019年現在の77億人から2030年には85億人、2050年には97憶人、2100年には109憶人へと増えることが予測されています。
人口が増えるということは、当然、必要なエネルギー量が増えるということです。
人口増加とエネルギー消費量は深い関係があり、エネルギー消費量は2050年には2015年の約1.5倍になると予測されています。
■ 世界の経済発展
中国やインドなどアジアを中心とした新興国では、近年大きな経済発展を遂げており、その成長は今後も加速していくと言われています。
経済が発展していくということは、たとえば日常生活に例えると、自動車の利用や電化製品利用の増加など、必要なエネルギー消費量が増えていくということです。
産業部門でも、工場の稼働や施設の建設、それに伴うさまざまな開発など、必要なエネルギーが増えていきます。
日本も経済発展のお陰で、便利で快適な生活を手に入れました。
どの国も自国の生活向上のために経済発展を目指しています。しかし、世界規模で見てみると、エネルギー消費量増加の問題が注目されているのです。
資源・エネルギー問題
②化石燃料
世界中で最も多く使われているエネルギーは化石燃料です。
化石燃料とは、動物や植物の遺骸が地中に埋もれ、地質時代を通じて炭化してできた、石油、石炭、天然ガスなどです。
私たちの生活を便利で豊かにしてくれた資源は化石燃料であり、現時点でも化石燃料は主なエネルギー源となっています。
もしも今すぐこの世から化石燃料がなくなってしまったら、今まで通りの便利な生活は出来なくなってしまいます。
■ 化石燃料のメリット
⦿安くて効率の良い資源
化石燃料はコストが低いのが最大のメリットだと言われています。
さらに低コストのわりには効率よくエネルギーに変えることが出来るので、とっても便利な資源として活用してきました。
⦿暮らしを豊かにする資源
私たちの暮らしを豊かにしてくれているエネルギーのほとんどは化石燃料によって生み出されています。
自由に行きたいところに行ける車やバス、飛行機の燃料もそうですし、ビニール袋やプラスチックの原料も石油です。
■ 化石燃料のデメリット
⦿環境破壊を引き起こしている
化石燃料の使用により大量の二酸化酸素(CO2)が排出されます。
CO2の大量排出は、環境破壊の温床となっている地球温暖化の原因となるので、世界中で問題視されています。
⦿化石燃料はいずれ無くなる
石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料は、無限に掘り起こせるわけではありません。
このまま化石燃料を採り続けると、いずれは地球上から無くなってしまいます。
化石燃料は限りある資源であることを認識しておかなければなりません。
~化石燃料の可採年数~
可採年数(かさいねんすう)とは「このまま使い続けるとあと何年間資源を採取できるか」という数字です。
下記の表は2018年末の時点での各化石燃料の可採年数です。
可採年数 | |
---|---|
石油 | 50年 |
石炭 | 132年 |
天然ガス | 51年 |
石油と石炭は約50年、天然ガスは約130年となっていますね。
もちろんこの数字は“予測”であり、どこかの国や地域で新たに資源が発見されたりする可能性もありますが、大切に使わなければなりませんね。
⦿供給量と価格の不安定
化石燃料は、地域によって埋蔵量が大きく異なり、資源の乏しい日本では、石油は中東諸国からの輸入に依存しています。
政情が不安定な中東諸国からの輸入は、過去に2度のオイルショックがあったように、供給量や価格が不安定になることがリスクとなっています。
資源・エネルギー問題
③エネルギー資源と発電方法
日本では、1950年代は「石炭」がエネルギー供給の約半分を担っていました。その後、社会や経済の変化で「石油」の需要が急増し、1960年代には石油が石炭を上回るようになりました。
しかし1973年のオイルショックがきっかけに、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーの導入を進め、中東諸国からの石油輸入依存の低減と、エネルギーの多様化を図りました。
■ さまざまな発電方法
日本の電力は主に火力発電、水力発電、原子力発電でまかなわれてきました。
火力発電では原料となる化石燃料の燃焼による温室効果ガス大量発生や資源確保の問題、原子力発電では、東日本大震災による福島第一原発の放射能汚染といった事故による被害の大きさなど、安全で環境に優しく資源確保の問題がない「再生可能エネルギーの開発」が進められています。
■ 火力発電
火力発電とは、燃料を燃やして発生した蒸気の力で電力を発生させる方法です。
日本ではおよそ8割の電気を火力発電に頼っています。
ここで燃やす燃料というのが、化石燃料である石油・石炭・天然ガスなどです。
⦿火力発電のメリット
・大量に電力を供給できる
・安定的に電力を供給できる
・需要に合わせて発電量を調整しやすい
・燃料となる化石燃料が安価
⦿火力発電のデメリット
・温室効果ガスの大量排出
・いつかは枯渇する化石燃料
・燃料の調達や価格が海外事情に左右されやすい
■ 水力発電
水力発電とは、水が流れる力を利用して水車を回し、電力を発生させる方法です。
日本ではその割合は低く、2018年では全体の7.8%が水力発電によってまかなわれています。
水力発電も火力発電と同様に、大量で安定的な電力を供給できますが、その設備建設や維持費、自然環境破壊に大きな課題があります。
⦿水力発電のメリット
・大量に電力を供給できる
・安定的に電力を供給できる
・発電自体はコストが安い
・温室効果ガスを排出しない
・資源枯渇の心配がない
・国外からの燃料輸入に頼らなくて済む
⦿水力発電のデメリット
・降水量によって発電量が左右される
・施設の建設や維持に費用がかかる
・施設の建設が自然環境や生態系に影響が出る
■ 原子力発電
原子力発電とは、ウランが核分裂するときに発生する熱エネルギーで電力を発生させる方法です。かんたんに言えば、核エネルギーを利用した発電方法というわけです。
エネルギー資源に乏しい日本では重要な発電方法として使用されていましたが、放射能の管理など賛否が大きく分かれてきました。
⦿原子力発電のメリット
・大量に電力を供給できる
・安定的に電力を供給できる
・発電のコストが安い
・温室効果ガスを排出しない
・資源枯渇の心配がない
・国外からの燃料輸入に頼らなくて済む
⦿原子力発電のデメリット
・事故の被害がとてつもなく大きい
・放射性廃棄物の最終処理場が決まっていない
原子力発電は省資源で大量の電気を作ることができ、CO2を全く排出しないクリーンな発電方法として活躍してきました。
安全面でも「日本の原発は安全」という神話があり、地域住民の賛否がありつつも、政府をあげて原発稼働に取り組んできました。
しかし、2011年3月に発生した東日本大震災による福島第一原発事故は、日本の原発依存に対して大きな見直しをせまりました。
地震と津波による建物のダメージに加え、電源喪失によって冷却機能を失い、原子炉を囲む建物で水素爆発が起こり、大量の放射線物質が飛散しました。
地域の住民は避難を余儀なくされ、長い期間、仮設住宅などで不便な暮らしを余儀なくされました。
事故から10年近く経った今でも、多くの人々が避難生活を続けています。
資源・エネルギー問題
④再生可能エネルギー
エネルギー問題は世界中で大きな課題となっています。
世界中で利用されている火力発電は、温室効果ガス排出による地球温暖化に繋がりますし、環境に優しいとされてきた原子力発電は、万が一の事故に膨大な被害を及ぼすことが実証されています。
限りある資源を大切に使っていくと同時に、自然のエネルギーを利用する「再生可能エネルギーの開発」が進められています。
■ 再生可能エネルギーとは
再生可能エネルギーとは、石油・石炭・天然ガスなどの、いずれは枯渇する(無くなってしまう)化石燃料とは異なり、太陽光・風力・地熱・バイオマスなどの地球上の自然界のどこにでも存在し、永久的に無くならないエネルギーのことです。
動物や植物から生まれた再利用可能な有機性の資源をバイオマスといいます。ここには石油などの化石燃料は含みません。木くずや木質ペレットを燃やしたり、家畜のふん尿を発酵させてメタンガスを発生させるなどして発電します。
さらに再生可能エネルギーの大きな特徴は、CO2を排出しないクリーンなエネルギーであるということです。
「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO2が排出しない」の3点が再生可能エネルギーの大きな特徴なのです。
メリットばかりの再生可能エネルギーですが、天然のエネルギーを扱うため、多くの課題も残されています。
⦿再生可能エネルギーのメリット
・枯渇する恐れがない
・輸入に頼らず国内で確保できる
・温室効果ガスを排出しない
・小規模の設置がしやすい
⦿再生可能エネルギーのデメリット
・発電費用が高い
・太陽光、風力は天候に左右されやすい
・風力、地熱は立地が限定される
私たちの便利で快適な生活において必要不可欠となっている資源とエネルギー、その在り方は国民1人1人が考えていく必要があります。
地球環境への配慮や設備の安全性、有限である資源などさまざまな課題がある中で、早めに化石燃料を卒業し、持続可能な再生可能エネルギーなどへの転換が求められてきています。
中学3年生の公民
新しい戦争
世界中で今までさまざまな「戦争」を経験してきました。
日本では第二次世界大戦(太平洋戦争)が歴史的に新しく、第二次世界大戦後は、アメリカとソ連の間で冷戦(冷たい戦争)と呼ばれる対立が起こり、実際の戦争には発展しませんでしたが、お互いに核ミサイルの照準を向け合うといった緊迫した状態が続きました。
このように、かつての「戦争」とは、国家と国家の戦いを表してしました。
冷戦の終結後、今までの戦争とは異なる形の地域紛争やテロリズムといった、国内やその周辺での争いや国とテロ組織が戦う戦争が起こるようになりました。
これらの戦争は「新しい戦争」と呼ばれています。
新しい戦争
①地域紛争
地域紛争はその国内や周辺地域を巻き込んで起こる紛争のことをいいます。
国内だけの武力によるもめごとを内戦とも呼ばれます。
地域紛争や内戦の多くは、異なる宗教や民族を弾圧したり排除したりする民族紛争という形で起こることが多いです。
民族紛争の他にも、国家政府の地位をめぐる紛争や、独立や解放を求める紛争、領土をめぐる紛争、資源を取り合う紛争など、その地域によるさまざまなタイプの地域紛争が起こっており、今この瞬間でも紛争によって多くの人々の命が奪われています。
■ 地域紛争と難民問題
世界中ではさまざまな地域紛争が起こっており、現在も不安定な状況が続いている紛争もたくさんあります。
アフガニスタン紛争、シリア内戦、イラク内戦、リビア内戦など、テレビのニュースなどでも聞いたことがあると思います。
⦿難民の発生
紛争というものは“争い”ですので、買った側と負けた側が出てきます。
すると、勝った側は負けた側を弾圧したり追い出したりするので、住んでいた土地を離れて周辺国などに逃げ出す「難民」が発生しています。
しかし周辺の国や地域では大量の難民を受け入れることができず、国境付近にある「難民キャンプ」と呼ばれる場所で暮らさなければならない人々がたくさんいます。
難民キャンプの多くは、極貧の生活が強いられており、水や食料、生活用品などを国際機関などの援助に頼っていますが、まだまだ不十分な状況が続いています。
新しい戦争
②テロリズム
近年では、特定の集団が目的のために破壊や殺りくを行う「テロリズム」と呼ばれる行為が増えています。
テロリズムは「テロ」とも呼ばれ、テロの行為者は「テロリスト」と呼ばれています。
組織化したテロリズムは国境を越えて活動しており、最も恐ろしいのは、一般の人々に対して無差別に攻撃する点にあります。
さらに「自爆テロ」と呼ばれる、テロ行為者自身の命も投げうって目的を遂行する行為は、防ぐことが困難であることから、世界中から恐れられています。
■ テロリズムの原因
テロが起こる原因は、大きくは宗教の違いや貧困問題であると言われています。
自分たちの宗教的主張を受け入れさせるための強硬手段や、経済格差による貧困の原因は先進国にあるという考え方から、アメリカやイギリス、フランスなどの先進国を狙ったテロなどが頻繁に起こっています。
また、長期間続いている地域紛争とも綿密な関係があります。
同じ地域や民族との争いにアメリカなどの先進国が加わることによって、資本主義への反発などからターゲットにされたりしているのです。
■ アメリカの同時多発テロ
世界中を恐怖に陥れたテロリズムとして記憶に新しい事件は、アメリカ史上、最悪の自爆テロ攻撃と言われている、アメリカ同時多発テロ事件です。
2001年9月11日、アメリカの4機の旅客機がハイジャックされ、1機は国防総省(ペンタゴン)に、1機はペンシルベニア州の郊外に墜落し、2機は世界貿易センタービルの2棟に激突させ、3,000人以上の犠牲者を出しました。
この事件の首謀者をイスラム過激派のオサマ・ビンラディンと断定し、アフガニスタンを攻撃、タリバン政権を崩壊させました。
■ ISIL(アイシル)の脅威
ISIL(アイシル)とは、イラクとシリアの一部地域を拠点として活動していたイスラム過激派組織で、自称イスラム国(IS)と名乗っています。
2019年現在では、その勢力は縮小されましたが、全盛期のイスラム国は広大な領土と豊富な資金を持ち、「国」を名乗って世界中にその恐怖をアピールしていました。
拠点付近の地域住民に対してはもちろん、世界中でテロ行為を行い、数多くの殺りくを繰り返し、日本人のジャーナリストもその犠牲となったことは日本でも大きく報道されました。
新しい戦争
③紛争やテロの解決方法
地域紛争やテロリズムは、多くの犠牲者や難民を発生させています。
その発生地域は中東諸国やアフリカ諸国が圧倒的に多く、このことからも貧困で苦しんでいる地域が多いということがわかります。
地域紛争やテロリズムに対して、国際連合が対策を考えたり、アメリカ軍がその地域に軍隊を派遣して軍事的な解決を試みたりしていますが、かえって恨みを抱かせて「報復の連鎖」を引き起こしてしまうなど、根本的な解決には至っていないようです。
直接的な軍事介入だけではなく、その地域の経済格差や貧困問題、宗教問題や民族問題、さらに歴史的背景など、複雑に絡み合う問題を少しずつひも解くといった根本的な解決方法が求められています。
■ 軍事行動
地域紛争が起こっている地域や、テロリストが潜伏している地域に、アメリカ軍や多国籍軍などが軍事行動を起こし、武力によって押さえつける方法です。
⦿湾岸戦争
地域紛争に対して有名な軍事行動としては、湾岸戦争が挙げられます。
1990年にイラクがクウェートに侵攻して占領しました。これに対し、アメリカ軍を主力とした多国籍軍が組織され、クウェートからイラク軍の撤退を求めました。
しかし、イラク政府が撤退に応じなかったため、多国籍軍は1991年1月にイラクに対して空爆やミサイル攻撃といった軍事行動を行い、2月末までにクウェートからイラク軍が撤退、解放されました。
⦿アフガニスタン攻撃
テロリズムに対しての軍事行動は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件に対する軍事行動が有名です。
アメリカ側は、このテロ攻撃はオサマ・ビンラディンをリーダーとするテロ組織「アルカイダ」によるこのだと断定し、アルカイダが潜伏するアフガニスタンのタリバン政権に対して引き渡しを要求しました。
しかし、それを拒否したタリバン政権に対して、アメリカ軍はアフガニスタン攻撃を開始しました。
直接被害を受けている現地の地域住民にとっては、他国による軍事行動によって救われる命も多く、その場としては問題を解決できているかもしれませんが、実際には根本的な解決には至っていないと言われています。
■ 貧困問題
地域紛争やテロリズムが起こる原因はさまざまですが、もっとも根底にある問題は貧困問題であると言われています。
国が貧しいほど地域紛争や内戦に苦しむ可能性が高くなると言われており、貧富の差によって地域紛争が起こし、地域紛争がさらなる貧困の原因になるという悪循環が起こっています。
さらに、自国の貧困は先進国の資本主義が引き起こしたものであるという考え方から、先進国をターゲットとしたテロリズムも数多く発生しています。
テロリズムに対する軍事行動が、さらなる恨みや反発を生み、新しいテロ行為に発展してしまうという悪循環も考えられるので、貧富の差の改善など貧困問題の解決が求められています。
中学3年生の公民
日本の国際貢献
第二次世界大戦後、日本の外交は、平和主義と国際貢献を重視してきました。
世界唯一の被爆国として核兵器の廃絶を求め、世界の平和なくして自国の平和はないという考え方より、国連の活動を支援する国連中心主義を採っています。
さらに、地球環境問題への取り組みや、政府開発援助(ODA)を中心とした途上国への支援、平和維持活動(PKO)として紛争地域への自衛隊の派遣など、国際協力に貢献しています。
ここでは、戦後の日本における国際貢献について詳しく見ていきます。
日本の国際貢献
①政府開発援助(ODA)
政府開発援助(ODA)とは、発展途上国の開発支援を目的とした政府が行う資金援助や技術協力です。
日本の政府はODAを1954年に開始し、これまで数多くの国や地域への支援を実施してきました。
■ 途上国への支援
世界には、貧困や飢えに苦しみ、十分な水や食糧がなく、病気や感染症に苦しみ、教育や医療を満足に受けられない人々をかかえる国や地域がたくさんあります。
これらの国や地域は“貧困の悪循環”に陥っており、自国の努力だけでは解決できなくなっており、他国からの援助が必要となっています。
■ 日本のODA
たとえば、「社会インフラ」と呼ばれる、学校、病院、上下水道設備などは、生活に欠かせないものですし、「経済インフラ」と呼ばれる道路、鉄道、港湾などの運輸関係、発電や送電などのエネルギー関係などは、その国の経済活動になくてはならないもの です。
日本のODAは、このような。そこに暮らす人々の生活に欠かせないものや、経済活動においてなくてはならないもの対して支援を行っています。
■ さまざまな国際機関
ODAには、日本が途上国を直接支援する二国間援助と、国際機関を通じて支援する多国間援助に分かれています。
多国間援助にあたる国際機関には、国連児童基金(UNICEF・ユニセフ)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連食糧計画(WEF)や国連職業農業機関(FAO)などがあります。
「ユニセフ」とか聞いたことがありますよね。
また、途上国に開発資金を提供する銀行として、世界銀行やアジア開発銀行、アフリカ開発銀行などがあり、これらも国際機関です。
日本はこれらの国際機関の取り組みに対して、ODA予算を使って援助を行ってきました。
しかし1997年をピークにODA予算が削減されてきています。
日本の国際貢献
②平和維持活動(PKO)
第二次世界大戦後、1945年に多国間の協力による世界平和と安全の維持を目的として国際連合が設立されました。PKOはその国際連合が行っている活動のひとつです。
PKOの主な活動は、各国の軍隊から構成される「国連平和維持軍」を紛争地域に派遣して、停戦や撤退の監視や、平和を脅かす偶発事件拡大の防止などです。
さらに近年では難民の支援や市民警護など、その地域にとって必要な人道的支援も行っています。
■ 日本のPKOの関わり方
日本の憲法では「平和主義」を掲げており、日本国民である自衛隊を危険な紛争地域などに派遣するPKOには長らく参加することはありませんでした。
しかし、国際社会からは「日本は金は出すけど人は出さない」という批判が出てきました。
1990年の湾岸戦争をきっかけに、日本もPKOに参加すべきだという意見が多くなり、1992年に「PKO協力法」が成立。
国内では賛否が分かれる中で、日本のPKO参加が決まりました。
初めての日本のPKO参加は、1992年9月にアフリカのアンゴラに3名の選挙監視要員を派遣し、これを皮切りに同年同月、カンボジアに600名の自衛隊を派遣しました。
外務省の発表によると、2018年までにのべ1万人以上を日本から派遣しているそうです。
■ 憲法「第9条」との関係
PKO法案では、日本が参加する条件として「PKO参加5原則」を定めています。
この5原則は、憲法第9条に違反しない範囲で自衛隊を海外派遣できるように設定したものですが、武器の使用など、憲法第9条と矛盾してしまうという問題があります。
万が一、紛争地域の武装勢力と交戦する事態になった場合、憲法を守っていたら自衛隊の命が奪われてしまう可能性も指摘されています。
■ 「ODA」と「PKO」
かんたんに言えば…「PKO」は、人を送り込む支援
どちらも日本が国際貢献していくうえで大切な支援です。しかし、それぞれには問題点もあります。
ODAは多くの場合で途上国の発展に役立っていますが、国によっては本来の目的通りに使われていないケースや、政府の援助が行き届きにくいケースもあります。
PKOは憲法第9条との矛盾点や、日本国民である自衛隊が命の危険にさらされてしまう問題などがあります。
このような問題がある中で、今後、日本がどのような形で国際貢献ができるのかが、大きな課題となっています。
中学3年生の公民
戦後の日本の外交
戦後の日本の外交
①日米安全保障条約
戦後の日本外交の中心となるのはアメリカとの関係です。
日本とアメリカは「日米安全保障条約」という同盟を結んでいます。
日米安全保障条約(日米安保条約)は、日本の安全保障を守るためにアメリカ合衆国がアメリカ軍を日本の国内に駐留させることなどを定めた条約です。
日本国憲法では「平和主義」が掲げられており、第9条では、戦争放棄、戦力の不保持、交戦権を認めない、ということが制定されています。
かんたんに言えば、日本は軍隊を持てないため、外国から攻撃を受けた時にはアメリカ軍に守ってもらう、そのためにアメリカ軍の基地を日本に置くという同盟です。
■ 沖縄基地の問題
日本の米軍基地は、およそ7割が沖縄県に集中しており、その基地負担については日本政府と沖縄県の間でさまざまな議論が繰り返されています。
とくに普天間基地は住宅密集地にあり、2004年に沖縄国際大学の敷地内にアメリカ軍のヘリコプターが墜落する事故などがあり、世界で最も危険な基地と言われています。
普天間基地はその安全面からすぐにでも移設すべきであるという考えは、日本政府、沖縄県、アメリカ政府の三者において合意がなされ、その移設先を同じ沖縄県内の名護市にある辺野古(へのこ)に決まりました。
ところが、2009年、民主党の鳩山由紀夫(元)首相は、普天間基地の移設先を「最低でも県外、出来れば国外」と表明したことによって、沖縄県民は県外移設に大きな期待を持ちました。
しかし、県外への移設は実現できず、沖縄県民に大きな失望感を与え、現在においても県内移設に強い反対があり、日本政府と沖縄県の間で対立が続いています。
戦後の日本の外交
②隣国との領土問題
戦後、日本では、隣国との領土問題が大きな問題となっており、いまだに解決の糸口が見つかっていません。
ロシアとの北方領土問題、韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題です。
■ 北方領土問題
北方領土とは、北海道根室半島の沖合にある、択捉島(えとろふとう)、国後島(くなしりとう)、色丹島(しこたんとう)、歯舞群島(はぼまいぐんとう)を指します。
これらの島々は、江戸時代から日本人が住み続けていた日本固有の領土です。
しかし、第二次世界大戦終結の直後に、ソ連軍によって占領されて日本人が住めなくなりました。
ソ連の解体後もロシア連邦によって不法に占拠され、現在も日本がロシアに対して返還を求めています。
■ 竹島問題
竹島とは、島根県に属する2つの小島と岩礁からなる孤島です。
江戸時代に初めにはこの島の周辺で漁業を行っていたという記録があります。
また、1900年代初めに竹島でアシカ漁が盛んになったことに対応するため、1905年の閣議決定で竹島を島根県に編入しました。
また、戦後の1951年に署名されたサンフランシスコ平和条約でも、日本は朝鮮の独立を承認するとともに、竹島を日本が放棄すべき地域に含めませんでした。
これに対し韓国はアメリカに対し「日本が放棄すべき地域に竹島を加えてほしい」と要求しましたが、アメリカ政府は「竹島は朝鮮の領土として扱われたことはなく、朝鮮によって領有権の主張がなされたとは見られない」と、韓国側の主張を明確に否定しました。
このことからも竹島は歴史的にも国際法上も日本の領土であることがわかります。
ところが1952年、韓国の李承晩(りしょうばん)大統領が、自国の海洋資源の権益の範囲として「李承晩ライン」を国際法に反して設定し、日本の漁船の立ち入りを禁止しました。
この範囲に竹島が含まれており、これ以降、韓国が竹島を不法に占拠し、現在も続いています。
■ 尖閣諸島問題
尖閣諸島は、沖縄県石垣市に属する魚釣島を中心とする5つの島と3つの岩礁からなる小島群です。
日本はどの国も尖閣諸島を領有していないことを確認した上で、1895年の閣議決定で沖縄県に編入しました。
その後も日本は実効支配を続けており、国際的にも日本の領土として認められています。
ところが1968年に国連アジア極東経済委員会が、東シナ海に石油資源の可能性を指摘する報告書を出したため、その後の1971年に中国が初めて尖閣諸島は自国の領土であるという主張を行いました。
それからは中国の漁船が尖閣諸島に接近するといった行為が続いており、日本はこういった行為に抗議するとともに、周辺の警備を強化しています。
以上で、中学3年生の公民は終了です。
冒頭でもお話ししたように、公民は私たちの生活に直結する、とっても身近な教科です。
みなさんが大人になった時に、最も実践的に役立つ教科が“公民”なのです。
中1や中2で習った地理や歴史は、そのほとんどが“暗記”でしたよね。
もちろん公民も覚えることがたくさんありますが、その学習方法は暗記だけではダメです。
なぜ戦争が起こったのか?
なぜ日本国憲法が作られたのか?
なぜ三権分立が出来たのか?
なぜ税金制度があるのか?
なぜ地球温暖化が起こったのか?
なぜ世界で貧困が起こっているのか?
どのように環境問題を解決すべきか?
どのようにエネルギー問題を解決するのか?
どのように地域紛争を解決すべきか?
どのように世界平和に貢献すべきか?
このように、「なぜ」という疑問と、「どのように」という解決方法を、少しでも興味を持って、自ら調べながら学習していく方法が効果的。さらにその内容を友だちや家族に説明できるようになると完璧ですよ!
このページでは、中学3年生の社会「公民」について説明させていただきました。
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